11.二十一才 大学四年生 初夏

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 迷惑をかけたなと思うことはある。  かがりのアパートの部屋の真下には体育学科の男子学生が住んでいた。かがりと同じくダンス部に所属していた。 「夜が、だいぶ、にぎやかだよね」  柏田くんという、小柄で姿勢の良い、王子様みたいに爽やかな男の子だった。  君がこの世に発生するよりも前、僕が第五スタジオに入り浸ってピアノを弾いているときに、柏田くんは声をかけてきた。  柏田くんはひどく赤い顔をしていた。  かがりの部屋の真下に住んでいることを申し訳なさそうに申告してきた。  僕も理由が思い当たって赤面した。  しどろもどろに謝ったのを覚えている。  僕が不思議で不可解に思うのは、僕たちと直接の面識もなく、この先出会う可能性もほとんどないのに、僕たちによって迷惑を被ったり不愉快になったりするひとたちだ。 『露出の高い服装で、性的な存在であることを自ら主張し、複数の男を得たこと。中絶する女性の権利をないがしろにしたこと』  この記事は僕たちの大学の社会学の先生が書いた。大学の内外でタレント的な人気を誇る名物教授だ。
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