11.二十一才 大学四年生 初夏

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 隼は裏方に回ってから、サッカー部のブログを担当していた。  試合予定とか試合結果とかを載せるシンプルなものだ。大学の公式ホームページにリンクしている。  だから隼が気が付いた。  名物教授は公式ホームページにコラムを書いていた。  聞いた話、として書かれていた。  もしこの聞いた話が本当なら、前時代的で女性の価値を貶めるような行動は哀れで愚かだ、と書かれていた。  僕は腹が立った。  自分が教育実習関連で責め立てられた時よりも腹が立った。だいたい学者のくせに、ことの真偽を確かめもせずに、聞いた話で発言するなと思った。  僕はこの文章を書くことで、三人で結婚するライフスタイルを君に勧めようと思っている訳ではない。  若者の妊娠出産を奨励している訳でもない。  意見としての正しいライフスタイルなるものは、たくさんあるかもしれない。  僕は、意見を事実として語るようなやり方は、好きではないんだ。  かがりは時間をかけてコラムを読んで、タブレットを隼に返した。  かがりは沈みがちだった。  この日は日曜日で僕たちは全員で第五スタジオにいた。  生後六ヶ月を迎えてだいぶ人間らしくなってきた君はリノリウムの床に敷かれたブランケットの上で寝返りの練習をしていた。  隼は、寝返りの仕組みについてスポーツ解剖学的に調べたんだと、熱心に寝返りサポートをしていた。  出産後に不安げな顔をするようになってしまったかがりに比べて、隼は本来の余裕と優しさを取り戻したように見えた。  隼をマネジメントリーダーに任命したサッカー部の監督は見る目がある。  隼はお世話をする対象があるときに、とても生き生きするのだ。
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