11.二十一才 大学四年生 初夏

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「ことの真偽、とユキは言うけれど」  かがりは静かにしゃべり出した。 「わたしは確かに身体の線を露出させて踊ったし、堕胎はしなかった。それは正しいわ」    僕はかがりが更に落ち込むのではないかと心配した。  かがりは光沢のある白のジャージを脱いだ。  まずボトムスを、それから上着のジッパーも開けてするりと袖を抜いた。  ラベンダー色のレオタードに同色の薄い巻きスカートを重ねた。身体の横で、巻きスカートのリボンを縛る。 「ユキ。今日はピアノを弾いて。わたし今日は踊りたい」  かがりの目に力が宿っていた。  隼が口を開きかけて閉じた。 「無理はしない。まだ跳ばないわ。ちゃんと体重を落として筋肉をつける。そうよね」  かがりはしばらく前に右膝を痛めていた。  出産後、元のように跳ぶことは出来なくなっていた。  かがりはそれを認めたくなかったのだろう。以前と同じ練習をしたがった。 「当然のように踊ってきた。わたしにはそれしか出来ないんだと思ってた。何故踊りたくなるのか分からない。いま、すごく踊りたい」  かがりは立ち上がって両方のつま先を外側に向けた。  かがりは天国から引っ張られて吊り下げられているように見えた。 「性的な存在でいいわ。わたしが誰かの何かを疼かせるような踊りが出来るなら。ちょっとでも心を揺らせることが出来るのなら。そういうふうに踊れたらって思うわ」
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