11.二十一才 大学四年生 初夏

6/19
前へ
/134ページ
次へ
 僕はいくつかシューベルトの曲を弾いてみた。  かがりは上半身を大きく使ってゆったりと踊った。かがりが動くと、動きが踊りになる。  腕が美しいと思った。  最初にこのスタジオでかがりの踊りを見たときには、足の甲が目に焼き付いた。  今日は、首から鎖骨までの線と、肘から指先までの線がきれいだと思った。  隼は抱っこひものなかに君を収納して、壁際に立っていた。  君はうとうとしたり、苦情を言うようにふにゃふにゃとぐずったりしていた。まだ髪の毛がほとんどないほわりとした頭だけが見えていた。  隼は赤ん坊だった君の頭の匂いをかぐのがとても好きだった。  かがりの髪を撫でて耳に口付けるのと同じように。  床に跪くような姿勢で動きを止めたかがりに、隼が近付く。  腰をかがめて両手で赤ん坊の尻の辺りを支えるようにしながら、かがりの顔を覗き込む。   かがりは隼に何かを囁いた。  隼は中腰のまま動きを止めた。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

59人が本棚に入れています
本棚に追加