1.十九才 大学二年生 春 

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 ひよこ豆とチキンのピタサンドというのがその日食べた昼食だった。  道徳教育の授業の後、五十五分間の昼休みに、隼とかがりは僕を芝生の上に誘った。  このサンドイッチは手作りなのかと僕が問うと、隼がそうだと答えた。 「凝っているね」  驚いてばかりいた。  かがりは隼の膝の間に抱きかかえられるように座り、僕と目が合うとにっこりした。  僕が売店で飲み物を買って戻ると、なんと彼女は隼にもたれて眠っていた。安らかに。  隼は僕のコーヒーを一口もらっていいかと尋ねた。  僕は戸惑う。    僕は人付き合いが上手い方ではなかった。  大学に入ってからは特に、ひとりで本を読んで空き時間を過ごすことが多かった。そのほうが楽だった。  僕は人間関係に対して、我ながら淡泊すぎるのではないかと思っていた。 「コーヒーの方が良かった?」 「いや、コーヒーは苦手なんだ」  僕が隼に頼まれて買ってきたのは、ボトル入りの麦茶だったと思う。 「すごく良い匂いがするから、飲んでみたくなった」  隼にコーヒーのカップを手渡すときに、互いの指先が触れあった。  眠るかがりの上に熱い液体を落とすわけにはいかない。緊張していたのはそのせいだ、とは思う。  隼はぼくの目を見つめたままカップの白い蓋を取り、ふちに口を付けた。  良く晴れた正午前、隼の瞳の中にも光が差し込んでいた。  いつだって隼は僕にとって光を集める存在だ。  白眼に浮いたわずかに青っぽい血管、黒眼との境目の滲んだ茶色、縮んだ瞳孔。  世界の入り口みたいなまつげに誘われていた。
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