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危険な姑
白い髪、白い肌、色素の薄い赤い目は切れ長で、とおった鼻、桜色に色づく艶やかな唇は薄く物静かなところがミステリアスな雰囲気をだし、
誰が見ても完璧な美青年それが田畠陽太だ、
6歳まで四宮を名乗り、12歳まで那矢野を名乗り、その後田畠を名乗っていたが四宮の性の親以外は死別している12歳まで育ててくれた母親は病死、その後代わりに那矢野性で面倒を見てくれていたお姉さんは自殺、その後預かってくれた田畠姓の両親は家の全焼に巻き込まれて死亡、その後は施設預かりだ。
陽太のその不幸な経歴が始まったのはいつも持ち歩いている、それはそれは美しい球体関節人形、
人が見れば不気味だと思うほどに美しい赤いドレスを着たその人形を持ち歩いてからだと思いうが、それは不幸ではなく、陽太に害をなす者が消えたから守り神の人形だともいわれる、どうしてそう言われるのかと言えば、陽太やその人形を害そうとすれば天罰のように酷い事件で体の一部を失くすか大きなけがをするか命を持っていかれるかするからだ、それは地元では有名な話になってしまって、ゴシップ好きや噂好きの者達の間では当たり前のことになってしまっている。
だからと言って陽太の周りには人がいないのかと思ったら小学校の時から変わらず陽太を取り巻く女子達が居ると言う、そしてその子達を中心に噂やオカルト的な事を信じないむしろ面白いと思う者や陽太の見た目に魅かれる女やその女を狙って近づく男なども居て、大学生活は賑やかく暮らしプライベートで陽太は家庭教師のバイトをしながら生活している。
陽太は人より頭が良く、周りの人間が派手ではあるが本人は身持ちが硬く誠実に見え大人しい青年で何より、陽太に勉強を教えてもらっている子供たちは受験を99%合格しているほど勉強の教え方も上手いのだ、そうなれば教育熱心な保護者には見た目や噂の異様さなど関係なく家庭教師をお願いしたいもので、おかげで陽太はアルビノであることを隠すことをしなくても仕事の依頼がたくさん来る。
今日も生徒の勉強を見て授業時間が終わったら夕食はいかがと言う母親の誘いに、過度に生徒と関わると仕事に障るのでと言えば真面目な方ねと、好印象を持たれたようで別れる。
夕飯の食材を買おうと、スーパーの方に歩く、人通りが少なく陽太は腕に抱える人形に話しかける
「今日の夕飯どうすればいい?」
それに答えるのは誰にも見えない2つの影、片方は人形と同じ赤いドレス、片方は真っ赤なワンピースを着たドレスの女の顔によく似た女の霊
「昨日はハンバーグだったし、魚はどう?」
ドレスの霊の言葉にワンピースの霊の言葉がかぶさる
「野菜も食べた方がいいわね、サラダも買うのよ?」
「わかったよママ」
二つの霊をママと呼ぶ陽太、それが異様だと思っていても追い出そうにも危害を加えれば何かの怒りにふれ、何かに害される。そしてなぜか権力の強い物に程好かれる彼を誰が迫害できようか。
信じぬ者はあざ笑い
信じる者は恐れ遠のく、
そんな生活だから陽太の心を揺さぶる存在など腕の中に居る人形だけ、大学では騒がしい仲間の中心で、まるで置物のように、読書をしたり生徒の課題の制作をしたり、そんな生活だ、陽太はそこにいるがいつもそこには居ないどんな場所でもどんな時でもそこに見えるのに、そこには居ないのだ。
陽太の中身は空っぽで何をするのも決めるのも、それは2人の母の仕事
だからそこに見えるのは白い男の子と人形だけ、
それに気づく者もいない、
そう思っていた。
ある夏の日、ジージーとうるさい蝉の声と相変わらずうるさい取り巻き達
ただでさえ熱く騒がしいこの日に、周りがうるさくてさすがにうっとおしくなってきた。
陽太が立ち上がればリーダー格の黒髪の美人な女が声をかける。
「陽太、どこ行くの?」
「静かな所に行きたい」
「りょうかーい」
陽太の言葉に素直に陽太を見送る取る巻き達、陽太は図書室に異動した。
最近そういう日が多い、年々熱くなる夏のせいだろう、
秋にはこのわずらわしさも無くなるだろうか、そう思いながら陽太は図書室で自分の課題をする。
こと、と隣に本が置かれる、取り巻き以外が近づくなんて珍しくて、母の気配がしない者が隣に来ることの驚きについ、隣を見てしまう、
その子は大人しい顔の眼鏡をかけた女の子だ、
「貴方は今どこにいるの?」
不思議な事を聞く女の子だけれどよくわかったなとも思う
「さぁ僕はここに居るし、でもどこにもいない」
その言葉に女の子は満足する
「そう、貴方はいつもそこに居るのにそこに居ない、どこにあなたを置いてきてしまったの?」
彼女はまだ質問してくる
「さぁ最初の家か、次の家か、燃えた家か・・・・・どこだろうね」
「その人形はそこに居るのにあなただけそこに居ない、ずっと不思議だったの」
「君は僕が不気味じゃないのかい?」
初めて陽太はその子を真っ直ぐ見た
「あ、今一瞬ここに居たね」
そう言えば人形の雪華以外に心から興味を持つことはなかった。
今自分はこの子に興味を持ったようだ。
「君は僕に会いたいの?」
そう問えば女の子は笑う
「私は山本紫苑、同い年で講義も一緒、ここならあなたが居ても、静かよね」
そう言って紫苑は本を読みだした。
これ以上聞いても答えはしないだろうなと思って陽太も課題をする、不思議とその空間は居心地がいい気がした。
その日から陽太は図書館に通うようになった。
何もすることなくただ本を読むだけだったり、生徒の課題の制作をしたり、ただいつも取り巻き達に囲まれながらしていたことをしているだけなのに心地いいその空気が好きでやめられなくて、通うようになった。
心地よさに紫苑の方を見ることも多くなった。紫苑はたまに本を読みながらクスクスと笑うので、どんなものを呼んでいるのか少し気になる、
その日は本当によく笑っていた。
「何を読んでそんなに笑ってるの?」
紫苑に聞けば紫苑がこっちを向く
「最近ここにいる事増えたね」
話を変えられてしまった。この居るは心の事だろうか、なんだか紫苑の事は気になるのだ。
「君が変だからだよ」
「女に囲まれているのに女にかける言葉はわからないのね」
そうは言われても自分で集めたわけじゃない
「勝手にくるんだ、僕は特にしゃべらないし」
「ふーん、じゃあこの本おすすめよ女好きの男が初めて一途に思う人ができる話」
「ラブストーリー?」
「ラブコメ」
「ふーん、そんなのも置いているんだね」
「いや、家から持ってきた」
「いいのそれ」
「いいんじゃない?」
「持ってくるなら何で図書館に来るの?」
「大学だと静かなのはここだけだからね」
「ふーん」
なんだか沢山しゃべって疲れた。いつも周りがしゃべっているのを聞くだけ、多くしゃべるのは仕事の時くらいだから。
「ねぇ今日バイトある?」
「今日はないよ」
「じゃあ夜、飲みに行かない?」
「え?」
陽太は母二人を見る、何も言わない母だが勝手に決めるわけにはいかない
「行っていい?」
陽太が聞けば二人は首を振る
「お酒なんて危ないわ」「その子はあなたに相応しくない」
ああ、やっぱりダメかと紫苑に向き直る
「だめ」
「誰に聞いたの?」
「ママ」
「何番目のママ?」
「2番目と3番目」
「二人いるの?」
「二人だよ」
「病死した人と自殺した人?」
「病死した人と元から雪華に居る人」
「あ、だから人形は存在感あるんだね」
「そうだね」
「でも今は陽太君も居るね」
「?」
「今日は陽太君ずっとそこに居る」
あぁ、そう言えばよく話したし、心で会話をしていた気がする。
紫苑といると陽太はその場に居られるようだ、それはドキドキしてざわざわして心地よくて、これが心かと思った。
「僕の家来る?」
なんとなく声に出していた。
こぼれた声に驚いて口を塞ぐ、家に人を呼ぶなんて!
「いいよ、ママはいいの?」
紫苑の質問にママを見れば
「貴方が気に入っているのなら」「貴方が呼びたいのなら」
なんだか不満そうではあるが、許してくれた。
「いいって」
「ならお邪魔するね、初デートが部屋デートって本当に外の経験ないのね」
「普通は違うの?」
「今回はいいよ、次は普通のデートしよね」
そう言って紫苑はまた本に目線を戻す
この会話は終わりかと寂しい気持ちもありながら、陽太も視線を生徒の課題作りに戻す。
穏やかな時間を過ごし、講義の時間になれば教室に向かい、なんとなく放課後を楽しみにしながらその日を過ごした。
自分の受ける講義も全部終わり、騒がしい取り巻きから離れ、学食に行って、紫苑にラインをする
【講義終わった、君はまだあるの?】
ピコンと返事が返ってくる
【私も
もうないよ、
今どこ?】
【学食】
【わかった】
もう返事を帰すことも無いし陽太は課題をすることにした。
カタカタと課題をしているとツンツンと肩をつつかれる。
「お待たせ」
「あ、来たんだ」
「来るよ、もう行く?」
紫苑がこてんと首をかしげる。
「あぁもう行こうか」
そう言って陽太はパソコンを片付ける、そしてその場から動けば紫苑が後ろからついて来る。
何かをしゃべるでもなく、黙って歩く、途中スーパーで買い物をする時に料理を作ってくれることになり、食材を買ってから帰る。
そして静かな帰り道、着いたのは、かつて陽太が真鶴と咲菜と暮らしていた家、そこそこの陽太の家庭教師バイトの収入と真鶴と咲菜、田畠家の財産が残っていたりする、不思議なことにどの親も遺書を残し、陽太に財産がある、この家は一度売却されていたが実は真鶴の生活している時に霊がよりついていて陽太が居ない間、訳あり物件で買い手がついてもすぐ売りに出されることを繰り返していたらしい、
そんな家も正当な跡継ぎが帰って来てからは大人しく、害を与えられることはない、
玄関を開ければ紫苑がおおっと言う
「存在感いっぱい」
「紫苑は見えてないの?」
「見えないよ、感じるだけ」
「そうなんだ」
それだけ言って陽太は家に入って行く。
それに続いて紫苑も入る
「台所勝手に使っていい?」
陽太が持っていた買い物袋を取り上げて、見つけた台所の方に行く
「僕は電子レンジしか使わないんだ、フライパンと鍋とかはあるから勝手に使って」
「はーい」
紫苑は返事をしながらてきぱきと動いている、陽太はそれを横目に課題を進める
静かな空間はいつもと変わらないはずなのになんだか居心地がいいのはなぜだろう、トントントンと聞こえる包丁の音も雑音で無く、心地いいBGMに聞こえる、真剣に課題に取り組むが、鼻腔をくすぐる料理の匂いが空腹を誘う、食べる事さえ義務的だったのに、なんだか今は空腹が楽しい気がする。
暖かな感じたことのない感情に戸惑っていると紫苑が料理を持ってダイニングテーブルに並べている。
「できたよ」
「ありがとう」
ダイニングテーブルを見ればチャーハンとインスタントの春雨スープとチンジャオロースが並んでいる。暖かな食欲をそそる香りに唾を飲みながら椅子に座る
いただきますと二人で手をそろえて料理を頂く
レンチンで無く自分の為に作られた料理は久々に食べた。
温度ではない暖かさを感じる気がする。美味しくて、思わず夢中で食べている。
ご飯ってこんなに美味しくて暖かい物だったろうか、それはそれは美味しくて箸が止まらない、気づけば皿は綺麗になっていた。
「おいしかった?」
悪戯っ子のように笑う紫苑
「久々にあったかかった。」
陽太の言葉に満足そうに紫苑は笑う
「じゃあ私もう帰ろうかな」
紫苑の言葉が、少しチクリと胸を刺す
「もう帰るの」
きっと紫苑には今の陽太が子犬にでも見えているだろう
「明日も来ていい?」
紫苑の言葉に陽太は嬉しそうに頷くと窓ガラスが割れる
ドレスのママが割っていた。
「あっちゃーそれはだめか」
陽太は酷く傷ついた顔をした。またこの美味しい料理を食べたいのにもうダメだなんて
それを察して紫苑は陽太に耳打ちする。
「お弁当作ってきてあげる」
それに陽太はにっこり笑った。
陽太は紫苑を家まで送りに行った。
おかげで紫苑は無事家に着いた。
陽太はママ達が余計なことをしないように雪華をしっかり抱いて紫苑を見送ったのだった。
「あの子はだめよ」
「あの子じゃ弱いわ」
2人のママはそれだけ言うと黙った。
翌日、大学に行けば教室に紫苑を見つける、嬉しくて近付こうとすれば嫌な予感がして叫ぶ。
「紫苑!伏せて!」
陽太の声に気が付いた紫苑が伏せると、紫苑の居た場所にカッターが通って行った。
キャーと叫ぶ声、誰が投げたのかと騒がしくなる教室、陽太は紫苑に駆け寄る。
「紫苑大丈夫?」
「大丈夫だよ、教えてくれてありが・・・っ!」
紫苑が雪華に目を止めて固まる、陽太は何かを察して後ろを見れば二人のママがにたぁと笑った。
あぁ相応しくない紫苑を排除しようとしたのか、と理解した。
だめだ
だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ、だめだ!!
紫苑を失いたくない!こんなに居心地良いのに、こんなに楽しいのに彼女を失ったら、もう感情の動く心地よさが無くなってしまう!
「し・・おん・・・」
離れて欲しくない、離れて欲しくないけど、こんなことがあった後じゃ・・・
「陽太!大丈夫、離れないよ、ね、陽太、」
陽太は頬に触れる紫苑の手に目を潤ませる
「ほんとに?」
にっこりと紫苑が笑顔を帰す
「怖がったりしない、親に置いてかれる子供みたいな貴方を一人になんて出来なよ」
「ありがとう」
どうかこの手が冷たくなりませんようにと願いながら陽太はその手をとるのだった。
その日の昼休み、紫苑に誘われて、外のベンチで昼食を食べることになった。
紫苑は約束通りお弁当を作ってきてくれていた。
可愛らしく彩りもいいそのお弁当のおかずを口に入れればもう冷めているはずなのに、暖かいような人を感じるその食事が美味しくて、また夢中で食べている。
そんなにたくさん食べたわけではないのに満たされ、お腹いっぱいだと感じる。
「おいしい」
もう無くなったお弁当箱を見て寂しい気もするような嬉しい気持ちに楽しくなって笑っていた。
「喜んでもらえてよかった。」
微笑む紫苑が愛おしくて可愛くて、その笑顔に触れたくて、顔を近づければ紫苑も目を閉じそれを待つ、陽太はそっとその唇に唇で触れて、そっと離れる、するとパチッと紫苑が目を開ける
「順番違うんじゃない?」
「こういう時どうすればいいかわからないんだ」
にっこり紫苑が笑う
「付き合ってくださいって言うんだよ」
陽太はギュッと紫苑を抱きしめ絞り出すように言う
「付き合って」
「いいよ」
抱き着きすぎて今どんな顔をしているかなんてわからないけど目の前のママ達が苦々しい顔をしているのだった。
2人で次の講義のために手をつないで歩く、雪華はしっかり抱いている。自分がそばに居ればめったの事は出来ないだろうと思ったからだ、だが、いつの間にかワンピースのママが居ない、それに陽太は気が付いていない、ひゅっと背中に何か走った感覚がして陽太は周りを見ると上から壷が落ちてくる。
「危ない!」
陽太が紫苑の手を引っ張って自分の方に寄せたので、落ちた壷はさっき紫苑が居た場所に落ちて大きな音を立てて割れる。
上を見ればワンピースのママが高笑いをしている、ドレスのママがニタニタ笑っている。
今度は命を狙うだなんて今起きた事件で騒がしい庭で陽太はママ達を見て初めて恐怖を覚えたのだ。
このままじゃ紫苑が離れてしまうと恐怖した時、ギュッと服を強く掴まれる
「大丈夫、陽太、私は負けない」
紫苑を見れば震えながらも笑っている、あぁどうすればこの優しい居心地のいい人を守れるのだろうか、どうすればママ達の暴走を止められるのか、この人を僕の側に置きたいのにこのままじゃ傷つけてしまう、どうすればいいんだ
その後二人で講義室に行ったが、陽太は紫苑に近づかないようにその日を終えたのだった。
それはママから紫苑を守る手段だったのだが、紫苑を傷つける事でもあった。バイトを終え、家に帰り、陽太は椅子に雪華人形を置く
「ママ、彼女の何がダメなの?」
陽太の問いに二人は口をそろえて言う
「「あの子は弱すぎる」」
口をそろえて言うそれはよくわかった。
「彼女が気配しか見れないから?」
「「そうよ」」
それは確かにこの家に住むには彼女は弱すぎる、この霊気の強い家では長くいれば体調を崩してしまうだろう、だが
「この家から出れば彼女も」
「「だめよ!!!!」」
ママの叫びで近くにあったコップが割れた。その破片が陽太の腕を掠める、初めてママに危害を加えられた。
それを見てママ達は慌てて陽太の周りを飛ぶ
「私の可愛い息子」
「綺麗な息子、怪我しちゃだめよ」
「「この家に相応しいお嫁さんを探そうね」」
異様なこだわり、異様な執着、この家にいったい何があるのか、陽太は思い出す、一度見せてもらった本棚の後ろの隠し棚、確か書斎にあるはずだ、陽太は書斎に向かいながら、田畠のおばさんを思い出す
『お前の母親は私の両親を殺した。ならその恩恵は私が受けるべきなのよ!』
そう叫んで陽太を打ったおばさんは全ての関節があらぬ方を向いて、倒れ、火が付いたのだった。
両親を殺した、それはどうやって?何故?その暮らしていた家は
どこの事?
書斎を開いて本棚の、ある部分を動かすとカタっと音がして、優しく引っ張ればその後ろに棚が現れる
棚と言っても一段の窪み、そこには2冊の本、
それをすべて出す
まず1冊目
それはアルバムだった。
幼い女の子2人と2人によく似た男性の写真
何枚かつづく幸せそうな父子家庭、だが2人がだいぶ大きくなった時、写真の中に男性は居らず、1枚、2人に似ていない男と女、そして見たことがある少女が居る、そこから写真は無い、何も飾られていないページを見て閉じようとした時、何か違和感に気が付く、陽太は少し浮いてるページを開くそこには片方のママと優しそうな顔をした男が寝ながら撮っている写真だった。その次のページには雪華を抱える片方のママ、もう片方のママは不格好なドレスを着た雪華に似た人形を持っている、そして気が付く、その部屋は書斎によく似ている
集合写真を見直す、家はどことなく似ている気がする
ぺらぺらめくって行ったらエコー写真がある、これは真鶴の娘、咲菜だろうか、だがその写真の真ん中には刃物を突きたてた跡がある
お腹にいる頃から咲菜を恨んでいたのかと思いながらアルバムを手放す、
もう1つはノートの様だ開くと記事の切り抜きが張られている、最初の方は小説雑誌の切り抜き、真鶴の小説の記事だ、高校生の頃から人気があったと言うのは本当の様だ、小説雑誌などの切り抜きだろう、パラパラとめくれば学校の記事が出てくる、大量不審死、高校生の変死体の山と言う記事、その中で、教師も死んでいて、その教師は生徒と体の関係がある噂があったと書かれている。その教師の写真があった。それはアルバムでママと寝ていた男だった。
真鶴は16で咲菜を産んで小説家をしながら妹として育てていたがある日娘とバレたと言う記事もあった。
そしてもう一つある場所の一軒家が全焼して双子の片割れと、夫婦が焼け死んだと書かれている、その燃え尽きた写真にある木や塀は、よく見覚えがある、この家だ、
つまりママ達は片割れが死んだ土地に居たいのだ
よく理解した。
生きて自分を保護した母は、異様に人形に憑りつくことにこだわっていた。いつもそばに居たい、もう離れたくないと思い入れの強いこの家で、小さなころから愛したこの家で、永遠を過ごしたいのだ。
あぁじゃあこの家を出ることができないじゃないか
陽太は初めて絶望という物を覚えたのだった。
翌日大学に行って、陽太は紫苑と目が合う、手を振る紫苑に振り返そうとしてやめる
これ以上彼女のそばに居ては彼女を傷つけ、本当の意味で失ってしまうかもしれない、そんなことは耐えられない、陽太は悲痛な顔をして紫苑を無視して取り巻きのところに行く
「あれ、よーた、あの子のところ行かなくていいの?」
「あぁ」
陽太が一番派手な女の言葉に返せばその隣の男が笑う
「そりゃあんな幸薄そうな色気ねぇ女相手にしねぇべ!」
それに他の男も返す
「そーそー陽太には梨香みたいな美人が合うって!」
そんな言葉に返事を帰すことなく陽太は本を取り出して読む、会話はやだーなんて梨香が言って盛り上がっている
チラッと梨香を見る、一番ママの影響が強く、小学校の時からそばに居て一番ママの影響を受けることで霊障の耐性もあるだろう、まさかママは梨香を妻にと考えているのか?それに気が付いてママ達を見れば心を察してにっこりと笑う、陽太はまた梨香を見る。
艶やかな黒髪、メリハリのある体型、アーモンド形の目に輝く瞳は黒く美しく、赤い口紅が似合い、シンプルな服を着ていても派手に見える、そんな女性に育った。
いつもそばに居て、取り巻きをまとめ上げ、陽太の意思を尊重し、2人でいる時は無理に話しかけてきたりしないし、別に悪い人間ではない、ママが梨香を選ぶのなら、自分も梨香を選べば紫苑をこの世から失う事はない、
講義が終わるころには陽太は決めていた。
紫苑が駆け寄ってこようとした時、陽太は梨香を誘って学食に行くのだった。
その日から陽太は紫苑を無視し続けた。ママが興味を持たないように
ママが喜ぶように、ママが危害を加えないように、
紫苑を失わないように
これでいいんだ
これで
これで・・・・いいんだ・・・
心にぽっかり空いた穴に気が付かないように
そこに居ない人間になるように
ある日のバイト帰り、いつも通りいつものスーパーで惣菜とレトルトを買う
紫苑の手料理を懐かしみながら、もう食べられないのだと残念に思いながらスーパーを出ると、誰かに腕を掴まれる。
俯いているが見覚えがある。
「紫苑!なん・・・」
何でここにと言う言葉を飲み込む、わかっている、最近自分が無視しているからよく通うと言うこのスーパーで待ち伏せしていたのだろう、いきなり無視をすれば怒りもあろう、でも来て欲しくなかった。ママを見れば不満そうな顔をしている。
どうしよう、離れないと、と思っていると一層強く手に力が入り、勢いよく紫苑の顔が自分を見るその顔は苦しそうに泣いている。
「私なんかした?なんで無視するの?」
陽太はその顔に苦しくなるも、こぼすように言葉を出す
「僕が居たら怖い目に合う」
「私負けないって言った!!!」
紫苑の大きな声に、ちょうどスーパーから出て来たサラリーマンが驚きながら通り過ぎて行く、ここじゃ場所が悪いと思っていると紫苑が胸にしがみ付いて来る
「私は貴方が離れて行く方が辛いし怖い」
あぁやめてくれ、そんな顔させたいわけじゃない、そんなつらい思いさせたいわけじゃない、僕の事なんて忘れて、幸せにどこかで存在してくれればよかったのに、君が生きて笑っているだけで僕はいいのに、僕が君を苦しめていたなんて、
僕はママ達から逃げたのに、君は逃げないなんて、
陽太は決めた、自分もママに反抗することを、雪華を捨てよう
そうすれば雪華についているママ達が自分の事も攻撃するだろうけれど大丈夫。
2人なら幸せになれる!!
陽太は雪華をスーパーの入り口に置いて紫苑と一緒に走ってその場を離れた。
ぼぅと浮かぶ二人の赤い女性はそんな二人を見送った。
その後その人形を拾う姿が
それは梨香だった。
陽太と紫苑はがむしゃらに走り、高台の展望台で足を止める
はぁはぁと荒い息を整えて紫苑の方を見ると紫苑は笑っていて陽太も嬉しくなって腕を振り上げる
「やっとママ達から解放された!!」
陽太の言葉に紫苑も喜ぶ
「よかったね!」
「やった!!」
「やったね!!」
「僕はついにやったんだ!!!」
陽太は高台から町に叫ぶ
「おめでとーーー!!」
紫苑も町に叫んで二人で喜びに包まれた。
そして見つめあい笑いあう
あぁ幸せだ、紫苑を手に入れた。
紫苑と一緒に居れる
こんなに幸せなことが・・・
音がすればズシャだろうか、紫苑の首に烏のくちばしが刺さる
「し・・・おん?」
「っか、が!」
紫苑が倒れれば烏がのどからその嘴を離して木のフェンスでカーと一声鳴く
「紫苑!!!」
慌てて傷口を抑えても大きく開かれた傷口、もうだいぶ出てしまった血、今すぐ救急車でも来なければもう間に合わない
そっと耳元に声が降りてくる
「陽太」
振り向けば雪華を抱いた梨香が居る
「陽太は梨香の物だよ」
にこぉとママ達と同じように笑う梨香
カホッという声の後から聞こえなくなる紫苑の声
あぁ僕は・・・・・逃げられない・・・・
その後いつの間にか呼ばれていた救急車で紫苑は運ばれて行った。
梨香と陽太はたまたまその場に居てなぜか飛び立たず人間に捕まった烏が紫苑を差すところを見ただけだと言う事で一応警察で事情聴取だけ受けて帰った。
陽太は逃げられない事と紫苑を失ったショックで完全に虚ろになってしまった。
その夜に陽太の家で梨香に導かれるまま寝室に入ったのだった。
数か月後、梨香は妊娠した。
陽太と梨香は婚姻届けだけ出す質素な結婚をして、陽太が貰っていた莫大な財産と陽太が今まで特に使うことも無く貯めていた貯金を切り崩しながら虚ろな陽太と妊婦の梨香は生活していた。
そして、梨香が出産した女の子は陽太の比でない程強い力を持っていた。
その子が生まれて祝った次の日、陽太は公園に居た。
何を見るでもなく、何を感じるでもなく
ただボーと、だがその手にはもう雪華はない
ボーとしている陽太の前に一羽の烏が降り立つ
「し・・・・お・・・・・ん・・・・」
ツーとこぼれる涙
陽太はまた歩き出す、道路に出ると走ってくる赤い車にママを見る、恨みに向かっていく身体
「うわあああああああ」ごん!!!
騒がしくなる道路
聞こえてくる救急車の音
薄れゆく意識の中
陽太は紫苑に手を引かれるのだった。
葬式の時、真っ黒な人たちの中で目立つ赤い人形、その隣ですやすや寝ている赤ちゃん
見える人がいたならば母方の祖母に抱かれる赤子に笑いかける2人の赤い女が見えただろう
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