どこかのドア

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「あの時はありがとうな。マジで助かったよ」そこにいた人は僕の手を握って涙を流した。やはり、誰なのかわからなかった。その人と別れ、次のドアを開けた。 「なんか、いろいろ酷いこと言って悪かったな。申し訳ない」 「村西って覚えてる? あいつ社長になったんだってさ」 「これ、借りっぱなしだった漫画。返すよ」 「そのうち、みんなも行くから、待っててね」  ドアを開けるたびに思い出せない人がいて声をかけてきた。僕はどうしていいのかわからなかったが、最後にはみんな、 「ありがとう」と言って笑った。 僕はドアを開けた。人が立っていた。本当に知らない人だった。 「お疲れ様。待っていたよ」 「はあ」 「じゃあ、行こうか」 「はい」  僕はその人について行った。どれだけ歩いてもドアはもうなかった。  そういえば、僕はいくつのドアを開けたのだろう。 「五千九百六十三です」その人が言った。 「すごい数ですね。後半になるにつれて、覚えていない人ばかりでしたよ」 「向こうも覚えていないかもしれませんね」 「そんなもんですよね」 「そんなもんですよ」  なんだかとても眠たくなってきた。歩けば歩くほど瞼が重たくなる。  大きな欠伸が出た。体の力が抜けていく。ドアが閉まる音がした。
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