夏の逃避行

7/7
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
私は中学生になった。 まだ外では蝉が鳴いているけど、夏がもうすぐ終わる。 「お母さーん、私の長袖シャツ知らない?」 今年は近年まれに見る冷夏で、新学期がはじまろうとしているのに一足先に秋がきてしまったような感じだった。 「押し入れにない?」 「あったー」 私は長袖のシャツを取り出す。 それに引っかかってなにかがついてきた。 「これ……」 白いワンピース。 小学校最後の夏の思い出がよみがえる。 あの夏の終わりに着ていたもの。 私はぎゅっとそれを握る。 「みーちゃん、準備できたの」 「うん!」 「そう。お客さま来てるわよ」 だれ?と思って外を見る。 学ランを着た、少しだけ成長した見知った顔が立っている。 「久しぶり」 「ゆーちゃん……」 私はぽかんと口を開けた。 なにも言えなかった。 蝉が鳴き止む。 今年も秋の背中を追いかけるように、夏が終わる。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!