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登場人物
弥兵衛白菊宵月読
登場人物
吉野屋弥兵衛
楓町の、吉野屋という料亭の一人むすこ。
21歳。とてもまっすぐで裏表のない男。
花菱屋白菊
花菱屋の太夫、中でも傾城白菊と言われるほどの美貌の持ち主。
19歳。月を眺めるのが好き。
花菱屋の旦那巳介と女房お雪
花菱屋の主人の巳介とその妻お雪。
弥兵衛の人柄や心をよく理解している人たち。
弥兵衛のことは、親戚のように思っている。
如月太夫
花菱屋の太夫如月。23歳。こちらも傾城と謳われる。
涼しげな清涼感のある美貌の持ち主で、三味線の名手。
身請け話があるだのないだの。
弥兵衛と白菊の相談相手。
泣きたかった。
涙が溢れそうだ。そんな辛い、身分違いの恋の話。
弥兵衛白菊月見身請
そんなこんなで、三人は共に花菱屋まで帰ってきた。栄助とその一家には後日、着物や金などが贈られた。
「弥兵衛さん、弥兵衛さんじゃないかい!!あんた!これ、あんた!」
「なんだい、お雪、こんな朝から…!!弥兵衛さんじゃないかい!ご無事だったんだね、あゝよかった、よかった…!」
そういい、巳介は店先から大声で、弥兵衛、そして白菊と如月の帰還を伝えた。店の衆が一堂に介し、三人の帰還を暖かく迎えた。
「弥兵衛、弥兵衛や」
「!父、上」
花菱屋に止めてもらっていた弥兵衛の父も弥兵衛の姿を見に、やってくる。弥兵衛は、少し身構えてしまった。
「父上、わたしは」
言い切る前に、温かい大きいものに包まれた感覚。父の体が弥兵衛を抱く。細くはなってもなお、大きいその体に、弥兵衛はすっぽり埋まった。
「すまんのう、すまんのう弥兵衛や。わしゃ、何もわかっておらんかった、すまんのう」
涙ながらに謝る父。弥兵衛は優しくわらい、
「父上、父上面をあげてくださいな。謝ることはございませんよ、父上。吉野屋を継ぐのが我が勤め、わかっております。しかし、わたしには背負うにはまだ重すぎた。わたくしもつくづく修行が足りませぬなあ」
弥兵衛は笑って見せた。しかしどうも気丈に振る舞っているようにしか見えない。
「あと、縁談の件ですが」
「断った」
「は…今なんと」
「断った。ここにきてわかった、お前さんの愛する女はお前の妻に相応しい。」
「父上…良いのですか、父上」
「金は、こちらで用意してある。持ってこい」
父の声と共に、たくさんの千両箱が花菱屋に担ぎ込まれる。
「吉野屋さま、いくらなんでもこれは多い」
寄せられた金額は白菊の身請け金額を遥かに越していた。
「花菱屋の旦那、倅が迷惑をかけた。しかし全責任は我らにある。吉野屋一同、花菱屋一同に深く御礼申し上げる」
その場にいた吉野屋のものが一斉に頭を下げる。もちろん弥兵衛もだ。
「そんな、面をあげてくださいませ、こちらも弥兵衛さまには何かと助けられた節があります。こちらこそ御礼を」
弥兵衛の父と話していた巳介は、ふと、白菊の方を見る。
「おめでとうござりまする」
花菱屋の一同が声を揃えて白菊にいう。白菊の身請けが決定した。白菊はあまりの安堵に、膝の力が抜け、その場にへたり込んだ。
「白菊、いやお時、これから頼むぞ」
「あい…!!お前さま」
幸福に満ちた笑顔で白菊と名乗っていた娘、お時は返事をした。
如月は少し切ない表情をして二人を見ている。
「お美千」
ふと、なを呼ばれたような気がして、如月は声の方を見た。弥兵衛とお時が立っている。
「これ、お美千も参るぞ」
「弥兵衛さんや、何を言ってるんだい」
震える声で聞き返す如月を目の前で、花菱屋一同の声がまたも響く。
「おめでとうござりまする」
その途端、お美千の両の眼から涙が溢れ出した。お時が駆け寄り、お美千に抱き付く。
「泣かないでくださんせお美千さん、一緒に帰りましょうや」
「お時、一緒に帰ろう」
日が沈む夕暮れ時。提灯が花の街に灯り出す。その中花菱屋の門は開き、二人の娘が飛び立った。一人は夫と、もう一人は新たな家族と。
彼女たちが見守る中、花魁道中が街を練り歩く。
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