吉野屋弥兵衛の話

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吉野屋弥兵衛の話

吉野屋弥兵衛の話 花街には、毎夜毎夜、沢山の男が 遊びにやってくる。 花街には沢山の遊女がいる。 そんな遊郭の店、花菱屋には、傾城白菊と言われる遊女がいた。 白菊を呼ぶにはそれなりの金が必要だった。 ある時、花菱屋にひとりの男がやってきた。 名を吉野弥兵衛と言う。弥兵衛は 町の吉野屋と言う名のある料亭の一人息子で、それはそれは優しい男である。 「すんません、誰かいらっしゃらないか」 店先でなれないように誰かを呼ぶ弥兵衛を見て、白菊はいてもたってもいられず 軽装に着替え、店先に降りた。 「おいでなんし」 「あ、あんたは」 「白菊ともうします」 「白菊...どの」 初々しいその姿は、白菊の目にはあまりにも可愛く見えた。 「何か御用がござんしたか?」 「あ、いやその」 「白菊〜!!」 座敷から呼びが掛かった。 「ちょっと待っててくださんせ、旦那さん読んでくるわいな」 そういい、白菊は奥の方に駆けていった。 (なんとまあ綺麗なお方じゃのう) 弥兵衛はその後ろ姿を見送りながらふと、そんなことを思った。
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