先輩と後輩

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「……で、その子が、城川君?」 「はい。そうです……」  結局、俺は城川のことを無下にすることが出来ず、妥協案として先輩と会う場に同席させることとなった。先輩にメッセージを送れば、快く「いいよ、連れておいで」と言ってくれたからだ。持つべきものは心の広い先輩だと思う。 「まぁ、いいよ。入って入って」  先輩が自身の部屋の扉を大きく開けて、俺と城川を招き入れる。俺はなんのためらいもなく靴を脱いで部屋に入るけれど、城川は少し戸惑っていた。……もしかしたら、無下にされなかったことに驚いているのかもしれない。 「……城川?」  ぼうっとしている城川に声をかければ、奴はハッとしたように靴を脱ぐ。小さく「お邪魔します」と呟いて、すたすたと部屋の奥へと入っていった。……なんか様子、おかしいかもしれない。 「気の利いたものとかないから、コーヒーでいい?」 「あ、はい……」 「ミルクと砂糖はいる?」 「……いります」  にこやかに城川に声をかける先輩と、挙動不審な城川。……なんだか、ちぐはぐだと思った。  だから、俺はコーヒーを準備する先輩のほうに寄る。その後、「なんか、すみません」と軽く謝った。 「どうして謝るんだ?」 「いや、だっていきなり知らない人連れてきて……」  眉を下げて言葉を発すれば、先輩はただ笑っていた。かと思えば、俺のほうに視線を向ける。 「別にいいよ。急に連れてこられたら困るけれど、祈は連絡入れてくれたからさ」  そういう問題ではないと思う。連れてきたほうの俺が言うのもなんだが、先輩はお人好しすぎる。こんな後輩の頼みを、簡単に叶えるなんてダメだ。 「それに、別にご飯食べるわけじゃないしね。飲み物くらいだったら、簡単に用意できるし」 「……はぁ」  先輩の言葉に返事をすれば、先輩がトレーの上にカップを三つ置いて、部屋に戻っていく。  城川はローテーブルの前で静かに座っていた。ただ、その視線は慌ただしく動いている。 「城川君、どうぞ」 「……どうも」  先輩が差し出したコーヒーカップを受け取って、城川が軽く頭を下げる。……なんだろう。俺に対する態度とも、亜玲に対する態度とも全然違う。ただ、どう関わっていいかわからないみたいな態度だ。 「自己紹介が遅れたんだけれど、僕は南場 真聖っていうんだ。……祈の先輩だ」 「……城川 翔也です」
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