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清流も1枚取って頬張る。甘さはあるけれど風味が独特で、食べたことない味が口いっぱいに広がった。
「……舞原、お前が買ってこいって連絡してきたくせに言いたい放題だな」
「いや、一番辛辣だったの唯崎さんですからね?」
笑いが起こる様子を、清流は一人遠くから眺めている心持になった。
経営企画部のメンバーとも別れなければならないこと、そして何も告げずに突然辞めなければならないことに、申し訳なさを感じる。
(直接感謝を言いたいけど、そうしたら辞める理由も聞かれるだろうし、何よりすぐに加賀城さんの耳に入ってしまう…)
メンバーの皆には本当に良くしてもらった。
突然やってきた何も分からない自分を受け入れてくれて、この明るい雰囲気に何度も救われた。
だからせめて最後の日までは精いっぱい仕事をして、少しでも役に立とうと決めていた。
「舞原さん、私も修正手伝いますよ」
「ほんと?ありがと、助かる」
清流は舞原から資料を転送してもらい、修正箇所を確認する。
そしてもう1枚クッキーに手を伸ばして口に入れると、舞原は少しギョッとした顔をする。
「清流ちゃん、まだ食べれるの?…これぶっちゃけ不味くない?」
「いえ、美味しいですよ?」
(このメンバーとこの空間で食べるものは、何でも美味しい)
その言葉は呑み込んで、清流は再びパソコンに向かった。
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