11. 暴かれた過去

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「分かりました、先方とはそのように交渉しましょう。これで交渉成立ですね」 交渉成立。 氏原から差し出された手を、清流は黙って見つめる。 前にもこんなやり取りがあったなと、洸に結婚の話を持ちかけられたときのことを思い出した。 あのときはこれからどうなるのかという不安と、行き場のなかった自分にはひとかけらの希望にも思えて、あの手を取った。 今はただ、心は鉛を呑んだかのように重苦しい。 氏原はいつまで経っても取られない手を引っ込めると、軽く肩をすくめる。 「1週間後すべてを終えたら、その名刺の宛先に連絡ください。よろしくお願いしますね」 「……分かりました」 それから、どうやってマンションまで帰ったのかはっきりとしない。 いつもだったら必ずコンシェルジュの人にも挨拶をするのに、今日は誰がいたのか、声を掛けられたのかも覚えていない。 今日、洸がまだ帰国していなくてよかった。 今だったらとても平静を装って顔を合わせられなかっただろう。 そのままベッドへと体を投げ出して、ぎゅっと自分で抱え込むように丸める。 ◇◇◇◇ いつからか、毎朝目覚めるたびに願うようになっていた。 どうか今日も1日を無事に過ごせますように、と。 でも本当にすべきは願うことでなく、平穏な日々に感謝することだったのかもしれない。
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