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12. 最後の1週間
目を覚ますと、まだ外は暗かった。
重い体を起こすと寝汗をかいていて、体がすっかり冷えていた。
頬は汗か涙かよく分からないもので濡れていて、清流は手でそれを拭った後、部屋着へと着替える。
どこか現実感のない中で、バッグに押し込まれたぐしゃぐしゃになった原稿が目に入って、昨夜のことが現実なのだと思い知る。
清流は首を小さく振った。
もともと、半年経ったら出るつもりだったのだ。
それが少し早まっただけのこと。そう自分に言い聞かせる。
洸と再会したとき、もしかしたら叔母から自分の過去をすべて聞いているのではないかと思ったけれど、洸の態度からそうではないことが分かった。
(加賀城さんに知られていないことに、あのとき私はほっとしていた…)
そう、洸に知られたくなかった。
離婚歴があることがではなく、叔母に言われるがまま『相手の家柄と地位が目的の政略結婚をした女』だということを。
それは、洸が一番嫌っていることだと知ったから。
もし、本当に洸から持ち掛けられた話を受けたくないのなら、自分の過去をすべて曝け出せばよかった。そうすれば、洸は早々に自分に幻滅して手を引いたはずだ。
でもそうしなかったのは、自分が『そういう類の女』だと思われたくなかったから。
あのとき、いやもっと前。
イタリアで初めて会ったときから、きっと自分は洸に惹かれていたんだ。
―――なんて、卑怯なんだろう。
だから今、自分が傷つくのは間違っている。
これは、あの優しい人をずっとだまし続けていた罰だ。
(……本当に、ごめんなさい)
でも、もしも許されるなら。
あと少し、あと1週間だけ今のままで過ごさせてほしい。
そして、ここを出ていくときにすべてを打ち明けよう。
清流はバッグから原稿を取り出すと、皴を丁寧に伸ばして半分に折り畳み、デスクの引き出しにしまい込んだ。
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