12. 最後の1週間

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「いただきます」 こうして向かい合ってごはんを食べるのも、あと何回だろう。 ここを出たら、住むところはどうしようか。 しばらくはウィークリーマンションのようなところを借りて、働く場所も探さなければならない。 叔母たちが暮らす実家に帰ろうかと思ったけれど、そうすればまたすぐにお見合い話を持ち込まれるような気がして帰りたくなかった。 今までは父の会社を継ぎたい、守りたいと思っていたし、そのためならお見合いでも何でも耐えられると思っていた。 けれど、まだほんの数ヶ月だが経営企画課で仕事をするようになって、自分の考えがいかに甘かったかが分かった。 洸があれだけ社内で信頼されているのは創業者一族だからではなく、社内でそれだけの実績を積み上げてきたからだ。 自分が会社を立ち上げた父の娘だからと後を継いだって、きっと誰も納得しないしついて来てくれたりしない。形だけ継いだって、何の価値もない。 根本的に考え方が間違っていたことに気づかされた。 「清流、どうした?」 「えっ?あ、味大丈夫かなぁと思って。酸っぱくないですか?」 「全然、美味いよ」 柔らかく微笑まれて、胸がぎゅっと締めつけられる。 幸せな思い出が増えれば増えるほど、もうすぐ訪れる別れを想像して苦しくなる。 あと何回、この笑顔を見られるのだろう。 「…そういえば、出張はどうでしたか?」 清流は浮かんだ考えを振り払うように、無理やり話題を変えて笑顔を作った。
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