12. 最後の1週間

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「今日これから何か予定あるか?」 「?いえ、特にないですけど」 はじかれた額を押さえつつ答えると、洸は少しほっとしたような表情をした。 「オーダーしていたスーツが出来上がったから取りに行くんだけど、一緒に来ないかと思って。俺の用事はそれだけだから、他に清流が行きたいところがあれば行くけど、どこかある?」 突然の提案に驚いて、え、とかあ、とか言葉にも満たない音しか出てこなかった。まるでデートの誘いのようで頭の中が騒がしい。 正直、行きたいところと言われても特に思い浮かばなかった。 行きたいところがないというよりも、洸と過ごせるのならどこでもいいと言ったほうが正しい。 (……あっ、) そのとき、ふっとここに引っ越してきた翌日にした会話を思い出した。 「あの、行く場所はどこでも大丈夫なので、加賀城さんが運転する車に乗ってみたいです」 「あぁ、そういえばそんな話したよな。いいよ車で行くか」 洸は予想外だったのか一瞬不思議そうにしてから、納得したように頷いた。 『じゃあ今度な、助手席に乗せてやる』 あんな何気ない会話を、洸も覚えていてくれた。 そのことだけで嬉しい。 「外に車回しておいてもらうように連絡しておく」 そう言って踵を返した後ろ姿を見つめながら、清流は自分がとてもラフ格好をしていることに気づいて、大急ぎで自分の部屋へ着替えに走った。
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