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「そんなに運転心配?」
「え?」
「さっきからずっとこっち見てるから」
「いえ全然っ、すごく快適です」
速度は早いけど、急発進や急ブレーキなんて一度もない。大きな車なのに揺れもほとんど感じなかった。
「ならよかった。下手だと疑われたままかと思った」
「…その節は失礼なことを言ってすみません」
「それはいいけど、どうした?今日は何か静かだな」
言われてみると、車に乗ってからはずっと隣りの洸ばかりを見ていて、話すことを忘れていた。
「えっと…運転の邪魔になるかなと思って」
「何で。槙野とはいろいろ話したんだろ」
洸は少しムッとしたように目線だけ向ける。
確かに槙野が運転する車に乗せてもらったときは、マンションに着くまでの間いろんなことを話した気がする。あのときは、こんなに緊張したりしなかった。
たぶん緊張の正体は、慣れない密室空間と、その近さゆえにいろんなことが気になってしまっているせい――けれどそれを正直に言うわけにはいかず、清流は洸から目を逸らして正面を見ることしかできない。
そうしてしばらく走っていると、前の車のハザードランプが点灯して、車は速度を落とし緩やかに止まった。
「やっぱり少し混んでるか、しばらく動かなそうだな」
目線を上げると、注意喚起の看板には数キロ先の渋滞が表示され、赤色に明滅していた。
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