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「なぁ、5秒しりとりでもするか」
「は、えっ?」
「しりとり、はい次」
「え、ちょっと5秒って、何ですかそれ?」
「はい5秒終了、清流の負けな」
ぽかんとしている間に勝手に終了される。訳が分からなくて思わずふくれっ面になると、おかしそうに笑われてしまった。
「5秒以内に次の言葉をいうしりとり、舞原が友達と旅行行くときによくやるらしい。前に聞いたときは何が面白いのかと思ったけど、清流の面白い顔が見れたな」
「…面白くないですよ、もう」
「でも少しは気が紛れただろ?」
洸の言う通り少し緊張がほどけたのを感じて、これは洸なりの気遣いなのだと分かった。
(あぁ、本当にこの人は……)
車に乗せてほしいなんてわがままに付き合ってくれて、助手席の自分にも気を遣ってくれて、優しいと思うと同時に好きだなと思わされる。
もう困るくらいに、洸のことがどうしようもなく好きなのだ。
「いきなり始めるのは狡いです」
「じゃあもう一回やるか?」
「やります、今度は負けません」
夢中で写真を撮っていて、自分の目で見ることを忘れてしまうときに似ている、そう思った。
綺麗な思い出を残すことに必死になって、心に刻むのを忘れてしまう。
出て行く期限が迫った今、きっとこの週末がゆっくり洸と過ごせる最後になる。今この時間に感謝して過ごさないともったいない。
そして、何一つ見逃さないように胸に刻もうと思った。
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