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料理の感想や仕事な話、たわいもない話をしながら食事をする時間は楽しく、あっという間だった。
お店を出たときにはすっかり夜で、少し肌寒い。
「食べ過ぎたな」
「本当に…でもどれも美味しかったですね、連れてきてくれてありがとうございます」
コインパーキングに戻ってきて、車に乗る。
「あ、悪い、少しだけ待っててくれるか?」
清流がシートベルトを締めていると、洸が何かを思い出したように声を掛けた。車に乗る直前にスマートフォンを見ていたから、もしかしたら仕事関係の電話でもあったのだろうか。そう思いながら、清流は頷いた。
遮音性が高いのか外と隔絶されたかのように静かだ。
(……今日は楽しかったな)
しんとした車内で、清流は1日のことを思い出していた。
暗く静かな車内にいると自分がどこにいるのか分からなくなるような、不思議な心地がして、清流は自然と目を閉じていた。
―――…―る、清流、
遠くで名前を呼ばれるのを、清流はどこか懐かしい気持ちで聞いていた。
前にもこんな夢を見た気がする。
家族で出かけた帰り、自分が狸寝入りをしている夢?
(あぁ、でもこの声は違う)
夢の途中かもしれないと思うのは仕方ないことだ。
彼が自分に笑いかけてくれる夢なら、恋に落ちてからもう何度も見ている。
「清流、」
だめだ、昔のように寝たふりはできない。
ちゃんと目を覚まして、自分の足で歩いていかないといけないのだから。
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