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『加賀城さん
突然このような形でいなくなることを申し訳なく思っています。
デスクの上の原稿はもう読まれましたでしょうか。
そこに書かれていることは、やや誇張された内容もありますがほとんどが事実です。
初めてイタリアで会った日の夜、私に彼氏はいないのか?と聞いたことを覚えていますか。
今思えば、あのときすべてを話していればよかったと思います。
そうすれば、加賀城さんが私に結婚話を持ちかけることも同居生活を送ることもなく、こんなご迷惑をかけることもなかったはずだからです』
手紙を書き進めながら、じわりと視界がぼやけてくる。
『結婚話を提案されたとき。
同居を始めたとき。
加賀城さんへの気持ちを自覚したとき。
真実を話すタイミングは何度もありました。
けれど、どうしても言い出せませんでした。
私はずっと、自分は本当の婚約者ではなく試用期間が終われば去るのだから言う必要はないと思っていましたが、本当は違いました。
真実を話して、軽蔑されるのが怖かった。
話すことで、今のこの生活が終わってしまうかもしれないことが怖かったのだと、今なら分かります』
外国でずぶ濡れの自分を助けてくれた優しさ。
オムライスを食べて美味しいと笑ってくれたこと。仕事をしているときはかっこいいのに、朝はいつも少し寝癖があること。カフェラテを淹れたマグカップを渡してくれる手の大きさ。
そんなさまざまな出来事の記憶が、少しずつ少しずつ、自分の中に降り積もっていた。
ずっと蓋をしてきた感情が、堰を切ったように溢れ出してくる。
『ずっと、好きでした』
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