12. 最後の1週間

19/19
前へ
/266ページ
次へ
キッチンの棚を開けて、洸に買ってもらった小花柄のマグカップを取り出す。 引っ越してきた翌日、洸にプレゼントしてもらったマグカップだ。 この前の洋服は受け取れず断ったので、これが洸からの最初で最後のプレゼントになった。 このマグカップに、何度も淹れてもらったカフェラテ。 同じマシンで同じように作ったはずなのに、なぜか自分で淹れるのよりも美味しかった。 もう飲めないんだなと思うと、また目に涙が溢れそうになって袖で乱暴に擦る。 (このマグカップは思い出にもらっていってもいいかな…) 割れないように洋服とタオルでくるんで、スーツケースの中にしまった。 窓の外では、さっきより雨が強くなって本降りになっている。 イタリアに着いた初日も雨だった。もしかして雨女なのだろうか、とこんなときにそんなどうでもいいことが頭に思い浮かんだ。 ―――そろそろ、行かないと。 最後に、カウンターに置かれたミントの葉をそっと撫でて、元気でねと声をかけた。 玄関で靴を履いて、もう一度振り返る。 「今まで、ありがとうございました」 清流はスーツケースを引いて、5ヶ月暮らした部屋を後にした。
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5958人が本棚に入れています
本棚に追加