1. 救いの手

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1. 救いの手

「これからどうしよう……」 異国の空の下で、工藤清流(くどうせいる)は途方に暮れていた。 ここまでの道のりは比較的順調だった。 心配していた初めての長距離フライトも思ったより快適で、空港からローマ市内までの移動も迷わず、ホテルまでの道を間違って人に尋ねたときは、とても親切に教えてもらった。 ただその幸運も、ホテルに到着するまでのこと。 「Seiru Kudoh様からの予約は、キャンセルのご連絡をいただいております」 たどたどしい英語のやりとりで、自分の宿泊予約がキャンセル扱いになっていることが分かった。 そんなはずはないと、キャンセルしていないことを予約サイトの画面を見せたりして説明したけれど「こちらのシステムではキャンセル扱いになっている」と繰り返されるだけ。 それならば別の部屋を取らせてほしいと言っても、今日明日は満室だという。正確には満室ではないのだが、1泊数十万円する部屋に泊まることはできない。 どうにかいろいろ交渉してみるものの、きっとこのような客の対応には慣れているのだろう。最初は丁寧だったレセプションの男性も、次第に答えは「Non」のみになっていく。 その態度に加えて、自分の後ろにはチェックインを待つ人が列を作り始めていて、これ以上時間をかけても迷惑になるのではないかという気持ちがさらに清流を萎縮させた。 (ほんと、私って小心者…) いつもこうだ、と清流は思う。 今度こそはと思って期待をすると、思った先からその期待は挫かれる。 肩を落とす様子に同情したのか、周辺で同ランクのホテルの場所を地図付きで教えてもらうことができた。 「Grazie(ありがとう),」 清流はお礼を言って、一人ホテルを後にする。 ―――まずは他をあたってみよう。
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