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そこは活気がある表通りとは対象的に人通りは少なく、ひっそりと薄暗かった。
路地の向こうには傘を差した男女のカップルのような二人と、ネオンで光る小さい看板が見える。
(カフェやレストランって感じでもなさそうだけど…もしかしたら、ガイドブックには載っていないような小さい宿泊施設かも?)
普段だったら、警戒して近づかないような薄暗い路地。
けれど、雨は止む気配はなく、灰色の空はどんどんと暗くなっている。あっという間に本降りになった雨は容赦がなく、全身もずぶ濡れだ。
ここでじっとしていても仕方ない。
清流はガイドブックをリュックにしまうと、スーツケースを持って歩き出した。
駅前近くは人も多く、傘がなく走っている人も多い。
清流は行き交う人の中をすり抜けるようにして、大通りを走りながら横切って、路地に入ろうとしたとき――その途中で、すれ違いざまに勢いよく人とぶつかった。
「ごっ、ごめんなさい!じゃなくて、sorry,じゃなくてっ、」
(イタリア語ですみませんって何だっけっ?)
ガイドブックで見た『イタリア語の簡単なあいさつ集』を記憶から引っ張り出そうとするも、とっさのことでまったく出てこない。
とにかく謝ろうと顔を上げると、黒い傘を差した男性が清流を見下ろしていた。
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