1. 救いの手

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そこは活気がある表通りとは対象的に人通りは少なく、ひっそりと薄暗かった。 路地の向こうには傘を差した男女のカップルのような二人と、ネオンで光る小さい看板が見える。 (カフェやレストランって感じでもなさそうだけど…もしかしたら、ガイドブックには載っていないような小さい宿泊施設かも?) 普段だったら、警戒して近づかないような薄暗い路地。 けれど、雨は止む気配はなく、灰色の空はどんどんと暗くなっている。あっという間に本降りになった雨は容赦がなく、全身もずぶ濡れだ。 ここでじっとしていても仕方ない。 清流はガイドブックをリュックにしまうと、スーツケースを持って歩き出した。 駅前近くは人も多く、傘がなく走っている人も多い。 清流は行き交う人の中をすり抜けるようにして、大通りを走りながら横切って、路地に入ろうとしたとき――その途中で、すれ違いざまに勢いよく人とぶつかった。 「ごっ、ごめんなさい!じゃなくて、sorry,じゃなくてっ、」 (イタリア語ですみませんって何だっけっ?) ガイドブックで見た『イタリア語の簡単なあいさつ集』を記憶から引っ張り出そうとするも、とっさのことでまったく出てこない。 とにかく謝ろうと顔を上げると、黒い傘を差した男性が清流を見下ろしていた。
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