1. 救いの手

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「……旅行者?」 思いがけず日本語で話しかけられた驚きで、清流は反応が遅れた。 「え?……あ、はい…そう、です」 想像よりも高いところにあった顔を、清流は呆けたように見つめてしまう。 長身で均整のとれた体躯に、どこか日本人離れしたエキゾチックな顔立ち。切れ長の双眸(そうぼう)は、眉間に皴が寄っていることで少し細められている。 (……綺麗な人、) 単にイケメンという粗野な表現で括るのも憚られるような――とにかく、綺麗な人だと思った。 「こんな路地に何の用?ここは観光客が行くような場所じゃないけど」 「あの、今日泊まるところを探していて…」 「今から?バッグパッカー…ってわけでもないのか」 「ホテルは予約していたんですけど無かったことになっていて…他もあたったんですけど、泊まれそうなところはどこもいっぱいで」 ――こんな話、信じてもらえないだろうな。 不審そうな視線に耐えきれなくなって、清流は下を向く。 雨はさらに強まって石畳に叩きつけられ、雨粒が跳ねて靴を濡らした。 「ちょっと、待ってろ」 小さな舌打ちの後、目の前の男性はスマートフォンでどこかへ電話を始めた。 スマートフォンを耳に当てながら、反対の手で持っていた黒い傘を清流の方に差し出す。そのおかげで、体を濡らす雨が止んだ。 (電話…?あ、もしかして警察とかに連絡されてる?) 何事かを相手に短く伝えて電話を切ると、色素の薄い涼しげな瞳が再び清流を捉えた。 「後ろ、二人組の男がつけてる」 ………え? 思わず確認しようとして、振り向くなと早口で制止される。
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