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「……旅行者?」
思いがけず日本語で話しかけられた驚きで、清流は反応が遅れた。
「え?……あ、はい…そう、です」
想像よりも高いところにあった顔を、清流は呆けたように見つめてしまう。
長身で均整のとれた体躯に、どこか日本人離れしたエキゾチックな顔立ち。切れ長の双眸は、眉間に皴が寄っていることで少し細められている。
(……綺麗な人、)
単にイケメンという粗野な表現で括るのも憚られるような――とにかく、綺麗な人だと思った。
「こんな路地に何の用?ここは観光客が行くような場所じゃないけど」
「あの、今日泊まるところを探していて…」
「今から?バッグパッカー…ってわけでもないのか」
「ホテルは予約していたんですけど無かったことになっていて…他もあたったんですけど、泊まれそうなところはどこもいっぱいで」
――こんな話、信じてもらえないだろうな。
不審そうな視線に耐えきれなくなって、清流は下を向く。
雨はさらに強まって石畳に叩きつけられ、雨粒が跳ねて靴を濡らした。
「ちょっと、待ってろ」
小さな舌打ちの後、目の前の男性はスマートフォンでどこかへ電話を始めた。
スマートフォンを耳に当てながら、反対の手で持っていた黒い傘を清流の方に差し出す。そのおかげで、体を濡らす雨が止んだ。
(電話…?あ、もしかして警察とかに連絡されてる?)
何事かを相手に短く伝えて電話を切ると、色素の薄い涼しげな瞳が再び清流を捉えた。
「後ろ、二人組の男がつけてる」
………え?
思わず確認しようとして、振り向くなと早口で制止される。
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