1. 救いの手

7/17
前へ
/266ページ
次へ
清流たちを乗せた車はしばらく走った後に、とあるホテルの正面玄関へと滑るように入っていた。 出迎えのドアマンが開けてくれた後部座席から降りて、建物を見上げる。すぐに高級ホテルだと分かる歴史を感じる外観に清流は驚いた。 「それでは、明日は午後12時にお迎えに上がります」 槙野と呼ばれていた運転手が簡潔に告げて一礼する。 清流のスーツケースはいつの間にかトランクから出されて、ポーターに引き継ぎされているところだった。 「パスポートは持ってる?」 「?はい、持ってますけど」 「少しの間貸して」 首から下げていたパスポートケースから取り出して渡すと、中を開く。 「工藤清流、か。俺は加賀城洸(かがしろたける)。1回しか言わないからよく聞けよ?今から俺とは恋人同士、何か聞かれても俺の話を合わせること、いいな?」 「……は、はい!?」 思わず大きな声を出した清流に、洸は一瞬だけ苦い顔をした。 「外国人というだけで目立つんだ。その上見ず知らずでこの身なりの女を連れ込んだと知れたら、俺の評判に関わる」 「そ、それはそうかもしれませんけど」 「不本意なのはお互い様だから我慢しろ。分かったら行くぞ」 ほとんど反論する隙も与えられなかった清流が唖然としていると、ドアマンが気遣わしげにこちらを伺っている。 こんな正面玄関で揉めていたら、目立って変な印象を持たれかねない。
/266ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5965人が本棚に入れています
本棚に追加