涙の行方 〜 瞳の中の少女

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その日の夜も、製菓店である土成屋の店内は混雑している来客で賑わっていた。 「‥‥‥いらっしゃいませぇ!‥‥‥チケットの方、確認させて頂きますネェ?‥‥有り難う御座います。それでは、3番テーブルの方へお進み下さいませぇ。」 その日の夜の土成屋では、立食パーティーが催されていた。日頃の感謝の気持ちを込めて、スウィーツのみならず、イタリアン、フレンチの他、トルコ料理やエスニック、韓国、ベトナム、タイ、中国料理やアメリカ料理の逸品が盛り付けられた大皿がテーブル一杯に並べられている。それらの会食を交えて、見ず知らずの人間同士の合間に何時の間にか『和』が生まれていた。 生産工場もオートメーションの時代を迎え、IT産業が栄える中、アナログ社会からデジタル社会への変遷期を迎えている人類世界の中で誰しもが心の中から忘れかけていた、人と人とのコミュニケーションの場が、其処には存在していた。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。。。 「‥‥‥佳太も瑠奈も分かってると思うけど、好き嫌いしちゃダメだからネ?‥‥こんな時こそ、何時もは贅沢出来ないメニューをシコタマお腹に詰め込んで、モトは取って帰らないとネェ。。。欲しいのがあれば、ママが取って来て上げるから、何でも言って!」 その内に、聞き覚えのある声が、店内の中から響いて来る。店内のホールの片隅に目を凝らして見ると、駿河早紀と一緒に、佳太と瑠奈を伴って製菓店『土成屋』を訪れている、柳田悦子の姿が其処にあった。 来場している客に紛れて、チラホラと目に映る、ホールの奥にある厨房内のスペースの様子がふと気になっていた悦子は、一緒に訪れていた早紀に呟いた。 「‥‥‥ワタシ、人と話して来るから、少しの間だけ佳太と瑠奈の事、見ててくれる?」 そう言って、悦子は、ホールの片隅で待機中の店舗スタッフに声を掛けた。 「‥‥‥実は、コチラのお店でパティシエの仕事をしている習志野悠人さんと話がしたいんですけど?」 そのスタッフの男は答えた。 「恐れ入ります。‥‥‥生憎、習志野の方は暫く不在にしてましてぇ。。。」 「‥‥‥‥‥‥‥!?」 其処には、習志野悠人の姿は無かった。
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