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星に願いを★BLのキスシーンあり
満天の星空だった。
夜空を彩色どる星々が、天を仰いだ二人の眼前に広がり、穏やかな彩光を放つと、数多の耀きは、見る者に饒舌と囁き掛けるほどの見事だ。
河を一本超えれば、そこは大都会であるのに、国道をわずかに逸れた場所は緑多き自然の宝庫で、殊にこの山頂は、格別に眩い星空を拝める名スポットだ。特に、こんな月の隠れた夜、瞬く星は騒やかだった。
煌めく星々は、並んで見上げる二人を唆し、甘い接吻けの導線を引き、不埒に堕としては、得意顔で瞬いて消える……雲の陰に──。
広い胸に抱き竦められ、瞼蓋を持ち上げた於菟は、必要以上に想いを込められる腕に戸惑い、微かに藻掻くと小さな声を発て笑った。
「──何だよぅ……」
笑いに不満を見せた禅が、腕から逃げようとした痩躯を更に抱き締めると、於菟は素直に身を委ね、
「──じゃぁ、キスして……もう一回……」
離さない腕に身を委ね、胸に顎を預けて粛かに瞼蓋を伏せた。そうして口唇が下りて来ると、惚っとり禅の名を囁いた。
「いいの? 僕と……こんなことになっちゃって──」
揶揄い口調で煽られ、舌を退けた禅は、
「そっちは、どうよ? 良いのかよ……俺で──俺、何も……こう言うの判らないんだぜ──」
熱に浮かされたような眼差しだった。笑いを交えた台詞だが、それは至って真率だった。
答える代わりに口唇を追い掛けた於菟は、緩めた隙間から紅い舌先を覗かせ禅を誘い、『教えてあげるよ』と吐息に絡めて囁き、悪巧みでもしているように、菫花色の左目を妖しく星が煌めかせた。
接吻けは入り口だ。無垢な想いも、淫らな思惑も、そこを超えれば流されるまま──後は進むか、卑怯と逃げ帰るのか……それは自分次第で──
綺羅星の呪文に拐かされた二人は、細かいことは御座なりに、忍び寄る官能と、高揚る欲情に、抗う術も無く今は素直に墜ちて行くだけ──
一度目の儀式で──
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