アカ

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「そう言えば君名前何て言うの?」 「青山(あおやま)です。青山(すばる)」 「青山? 仲間だ」  弾んだ声で先輩が言った。先輩には赤という色があって、僕には青という色がある。だから仲間、か。 「青山君、赤色ってどんな色?」  先輩は他の絵の方に向かって歩きだした。僕はその後についていきながら考え込む。赤って、そりゃ鮮やかな色ですよ。なんて言っても先輩には上手く伝わらないんだろうな。聞いていると、赤色が生まれた時から分からないっぽいし。何て説明したら、先輩に伝わるだろうか。 「難しいですね、説明するの」 「だよねー。ぶっちゃけ、私がメガネかければ良い話なんだけどさ」 「メガネ?」 「色覚補助メガネのこと。それをかければ、赤色も分かるようになるの。リンゴの色も、消防車の色もバッチリ分かる優れモノ」 「かけないんですか?」  先輩が立ち止まり、僕も自然と立ち止まる。赤系をふんだんに使った絵をまじまじと見つめる先輩の目には、真っ黒な絵にしか見えないんだろうな。先輩はパッと視線を足元に移すと、微かに躊躇いを見せる。 「私、んだよね」  「怖い?」と僕は尋ねる。 「赤色を生まれた時から分からないからさ、今頃になって知るのが怖いんだよ。きっと素敵な色なんだろうけど。知らないことを知るのって中々勇気がいるものだよ。ほら、コピ・ルアクみたいに」 「コピ・ルアクってジャコウネコの糞のコーヒーのことですか?」 「そう。普通、猫の糞をコーヒーにしようと思わないじゃない? だからそれをコーヒー豆として採用して、飲んでみるって中々勇気がいると思うんだ。それと同じで、私も赤を知るのにすごく勇気が必要。何度挑戦しようとしてもやっぱり怖くて、日和っちゃうんだよね」  先輩が苦笑いを浮かべた。それからまた歩き出す。僕は小さな背中を眺めながら、しばらく考え込んだ。 「赤色は凄くあったかい色です」
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