3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「そう言えば君名前何て言うの?」
「青山です。青山昴」
「青山? 仲間だ」
弾んだ声で先輩が言った。先輩には赤という色があって、僕には青という色がある。だから仲間、か。
「青山君、赤色ってどんな色?」
先輩は他の絵の方に向かって歩きだした。僕はその後についていきながら考え込む。赤って、そりゃ鮮やかな色ですよ。なんて言っても先輩には上手く伝わらないんだろうな。聞いていると、赤色が生まれた時から分からないっぽいし。何て説明したら、先輩に伝わるだろうか。
「難しいですね、説明するの」
「だよねー。ぶっちゃけ、私がメガネかければ良い話なんだけどさ」
「メガネ?」
「色覚補助メガネのこと。それをかければ、赤色も分かるようになるの。リンゴの色も、消防車の色もバッチリ分かる優れモノ」
「かけないんですか?」
先輩が立ち止まり、僕も自然と立ち止まる。赤系をふんだんに使った絵をまじまじと見つめる先輩の目には、真っ黒な絵にしか見えないんだろうな。先輩はパッと視線を足元に移すと、微かに躊躇いを見せる。
「私、怖いんだよね」
「怖い?」と僕は尋ねる。
「赤色を生まれた時から分からないからさ、今頃になって知るのが怖いんだよ。きっと素敵な色なんだろうけど。知らないことを知るのって中々勇気がいるものだよ。ほら、コピ・ルアクみたいに」
「コピ・ルアクってジャコウネコの糞のコーヒーのことですか?」
「そう。普通、猫の糞をコーヒーにしようと思わないじゃない? だからそれをコーヒー豆として採用して、飲んでみるって中々勇気がいると思うんだ。それと同じで、私も赤を知るのにすごく勇気が必要。何度挑戦しようとしてもやっぱり怖くて、日和っちゃうんだよね」
先輩が苦笑いを浮かべた。それからまた歩き出す。僕は小さな背中を眺めながら、しばらく考え込んだ。
「赤色は凄くあったかい色です」
最初のコメントを投稿しよう!