夏なんて

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夏なんて

 セミの声が聞こえる。 「はあ、嫌んなる、何もかも」  わたしの一言に、隣で同じくお弁当を食べていた静音(しずね)が首を傾げる。 「どうしたの(うた)? 今日はずいぶんとやさぐれてるわね」 「別に」  わたしはお弁当を食べ進める。ウインナーを食べようとすると手が止まる。彼も好きだったから。  「はあ。夏なんてなくなればいいのに」  そんなわたしの言葉に静音は怪訝そうな顔つきになる。 「いったいどうしたの? 夏好きじゃなかった? 彼も好きな夏だからとか言ってたのに」 「嫌いになったの。その彼からもフラれちゃって」 「え……」  俯きながらそう言うと、静音は言葉が詰まったよう。  こういう瞬間本当に嫌い。同情されるの分かるから。静音はそんなことないんだろうけど。 「……そっか。いつ?」 「昨日の夜。メールで一言『わかれよ』って」 「うわ、ひっど」 「その後、何度連絡しても繋がらなくて」 「そっか」  そう軽く言って静音はお箸を置いて、わたしの背中をパンパンと叩く。 「ごほっ、ちょっと静音……」 「あ、ごめん」  軽い謝罪。こういう感じだから静音のそばにいるのは心地良い。だから思わず口をついて出たのかも。  喉のつかえをとるために、水筒のお茶を飲んだ。喉が潤う。 「ふう……」 「ほんとごめんね」  今度はわたしの背中を優しく擦ってくれる。涙出る。 「うわ、泣かないでよ。心臓に悪い」 「もう、引かないでよ。一応失恋してんだからさ……」  わたしと静音は顔を見合わせてふふっと笑い合う。静音に話して少し気持ちが落ち着いた。
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