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あなたは誰
『ごめん、歌!』
「もう、紛らわしいったら!」
家に帰るなり、彼から電話があった。慌てた様子で。
「『わかれよ』って送ってきたくせに。しかも全然繋がらないし」
『だから、別れよ、じゃなくて、分かれよ、ってことだったんだって。繋がらなかったのは充電し忘れてただけだから!』
全く紛らわしすぎる。
どっちの服の方がわたしに似合うと思うのかって写真を送ったら『わかれよ』って何。
『俺いつも言ってんだろ。歌にはふわふわした服が似合うって』
「もう……」
でもよかった。誤解だったんだ。彼の思い出、夏ごと消し去りたいなんて、わたしったら……。
何だろう、この胸に広がる焦燥感。
わたし、何か忘れてるものがあるような気がする。
「……」
『歌?』
「あ、ごめん、何でもない」
『そうか? まあ、よかったよ。明日のデートにはその服着てけよな』
「うん!」
そう言ってわたしは電話を切った。
わたしは布団の中に潜り込む。
「何なの、いったい……」
ふと、昼間見た女の子を思い出す。
あの子泣いてた。泣きながら笑って、何故かわたしの名前を呼んでた。すぐにいなくなってしまったけど。
「あなたは、誰なの?」
誰が答えてくれるわけでもなく、わたしは一人静かな部屋で呟いた。
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