1・答えられない想い

1/2
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/129ページ

1・答えられない想い

「ワタシ、アナタを愛する」  それが、彼からの告白の言葉だった。  カタコトの日本語で、一生懸命に言葉を紡ぐのが愛らしい。頬を赤らめながら微笑むその顔は、三十五歳の男性とは思えないほどあどけない。  金曜夜の芝公園。赤く光りを放つ東京タワーを背景に、彼は思いの丈を打ち明けてきた。  そんな彼に向かって、私は眉を落とす。 「チョウさん」 「はい」 「ごめんなさい。あなたの気持ちは嬉しいです。でも、ごめんなさい」  私の言葉に彼は──チョウ トウリョウさんは目を点にする。眉を八の字にして首を傾げるの。 「なぜですか。ワタシは何が悪いのか?」  チョウさんは本当に悲しそうに声を震わせる。なんか、心苦しくなっちゃう……。  それでも、私は軽く頭を下げて口を開いた。 「チョウさんがとても素敵な人だっていうのは分かってる。でも、気持ちに答えられない……」 「それは、国が悪いですか? 中国人だから、悪いですか?」  ぎこちなく、私は首を横に振ってみせる。  肩をすくめ、チョウさんは全く納得できないというように疑問を投げかけてきた。 「ああ、分かったぞ。ワタシは歳が上だ。ムラオカさんより十歳も上なんだ。それが、よくない?」 「うーん……そういうこと、かな。本当に、ごめんね」
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!