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あれこれ考えているうちに、僕はいつの間にか家の前に到着していた。
白色の建物で、築二〇年ほどの二階建てアパート。階段を上り、二〇一号室の扉に鍵を差し込む。
玄関へ入ると、部屋の中から野菜スープのようないい香りが漂ってきた。
まだ朝ごはんを食べていなかったな。
疲れた身体を癒してくれる香りが僕を包み込む。
「あっ!」
部屋の奥から高い声がした。僕が何かを言う前に、愛する彼女が──ムラオカ ミキさんが顔を覗かせて、玄関まで来てくれた。
優しい笑顔を見た瞬間、今まで巡らせていた未来への悩みが吹き飛んでいく。
「ワタシ帰りました、ミキさん」
僕が靴を脱いだその直後。彼女はぎゅっと、抱きついてきた。
このぬくもりが愛おしい。夜勤の疲れなんて、忘れ去ってしまうほどに。
僕は、彼女を愛している。だからこそ、あれこれ考え込んでしまうのだが、悩みすぎていたって仕方がない。
彼女との幸せが末永く続くように、今のこの瞬間も大切にしたいんだ。
「辛苦了。トウリョウさん」
可愛らしい中国語で「お疲れさま」と労ってくれる彼女は、いつだって僕に癒しを与えてくれる。
そう遠くない将来、彼女にきっとこう伝えよう──
嫁给我吧。
僕のお嫁さんになってください、と。
【终】
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