瞬間移動で行く爆速世界一周撮影の旅。

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瞬間移動で行く爆速世界一周撮影の旅。

 狭い玄関にぎゅうぎゅう詰めで四人が立つ。靴を履いたため、揃ってたたきに立つしかないのだ。行きますよ、と咲ちゃんの声が聞こえる。  次の瞬間、草っ原に立っていた。冷たい風が頬を撫でる。辺りを見回す。人影は一切無い。まあ目撃されたらえらい事件になってしまうのでいなくていいんだけど。 「カナダの高原を選びました。さあ、写真を撮りましょう」  海外かよ。すげぇな。超能力もだが、咲ちゃんのこだわりがさ。いつの間にか田中君が白い板きれを持たされていた。光量を調節するためか。恭子にポーズの、田中君に角度の、細かい指示が咲ちゃんから飛ぶ。本当に好きなんだな、メイド。百点満点中一億点って評していたし、よっぽど恭子のメイド姿が気に入ったのだ。首を一つ振り辺りを散歩する。折角海外にやって来たのだ。楽しまなきゃね。ちょっぴり妬いたわけではない。決して。  その後も世界中の撮影スポットを瞬間移動で飛び回った。林。山頂。岩場。南の海。洞窟。砂漠。密林。湿地帯。川原。博物館。家電量販店。本屋。おもちゃ屋。ラグ屋。人の建てた施設はセキュリティがいい加減な場所を選んだのか。そもそも訪れた場所には本当に最初から人がいなかったのか。或いは咲ちゃんが全部超能力で何とかしたのか。聞く意味も無いので行く先々を見学して楽しんだ。  何時間経っただろう。田中君が、そろそろやめよう、と咲ちゃんの肩を叩いた。 「でもまだ深海と火山と宇宙センターにも行きたいのだけど」 「今度にしよう。恭子さんが限界だ。俺も疲れた」  親友はラグに倒れ伏していた。あれだけポーズを取らされれば疲れようて。燃え上がっている咲ちゃんと見物人の私は元気だが撮影続行は不可能だ。咲ちゃんもすぐに理解したらしい。わかった、と呟くと同時に彼女のアパートへ帰って来た。恭子の肩を叩く。呻き声だけが返って来た。 「しばらく休ませて貰っていいか? コンビニでコーヒーでも買ってくる。咲ちゃん、一緒に来ておくれ。案内を頼むわ」  超能力者を手招きする。いいですよ、と快く応じてくれた。  二十分後。にこにこ笑う咲ちゃんとほくそ笑みながらアパートへ戻って来た。恭子はメイド姿のまま寝息を立てている。すぐに咲ちゃんが写真に収めた。しれっと恭子の頭を持ち上げ私の膝に乗せる。起きる気配も無い。よっぽど疲れたのだな。私達にレンズを向け、咲ちゃんはシャッターを切った。
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