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今から10年前、宮音音楽大学に「神童」と呼ばれる生徒がピアノ専攻科に入学した。
彼の名前は、羽倉紅陽。
当時から世界で活躍していた音楽家・倉川勝輝の実弟で、そのピアノの才は誰もが認めるものだった。
学内コンサートで兄と共に連弾をして以降、唐突に実力を伸ばし始めた紅陽は、文字通り「天才」として着実に学年を上がっていき、成績を最優秀の評価で卒業した。
現在はSound of Perpetualという楽団でピアノを担当しており、兄の勝輝と共にメディア出演も増えてきたピアニストだ。
そんな紅陽が卒業して、7年後の宮音音楽大学に「第2の羽倉紅陽」と呼ばれる、天才的なピアノの腕を持つ生徒が入学する。
彼を見た学長、宮音和音は、教員達の前でこう言った。
「彼は……お兄さんと会う前の羽倉くんを彷彿とさせる、まさに心を閉ざした天才だ。きっと心を開けば、羽倉くんと同じように素晴らしい才能開花を見せてくれるだろう。」
担当教授となったのは、10年前に紅陽を担当していた今は亡き教授、グルーデン・アッカルドの後輩にあたるルカ・アルジェンテロ。こちらも日本に住んで長いイタリア人だ。
「私に、担当させてください。」
心を閉ざした紅陽と真正面から対峙したグルーデンと同じく、この青年を導きたい──ルカはそう言った。
「私はルカ・アルジェンテロ。君の担当教授を務めさせてもらうよ。よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
差し出されたルカの手を取ることも無く、小さく頭を下げたこの青年こそ、第2の羽倉紅陽こと……羽神望無だった。
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