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8月2日水曜、昼下がりは快晴。相変わらず猛暑が続いている。通院の途中、いろはは道端で子供達が、100均の巨大水鉄砲で遊んでいるのを見た。最近のデザインは、マシンガンのようで、カッコイイ。電磁波攻撃で疲れているのに、そんなふうに思う余裕が出てきたのも、あの時の彼が『またね』と言ったからだ。本当に次も会える気がする。
いろはは今度は本命の精神科の診察室で同じ事を告げた。
「そう思っちゃうんだね」50代男性医師が発言した途端、近くの壁が粉砕し、前回の青年が現れた。彼がハリセンで医師の頭をふっとばす。
「プラシーボ効果だと思って何が悪い」
「じゃあそう思ってればいいよ。オレは何度でも来るからな」
「あの」
いろははすかさず割って入った。
「お名前を教えて」
青年が笑って振り返る。
「御門凪。じゃあまたね、いろはさん」
いろはは安堵し、今度は薬局に向かった。処方箋を出す。待っていると、いろはの名前が呼ばれた。
「はい、以前と同じお薬ですね」
御門と比べたら申し訳ないが、30代の男性薬剤師、市松は、恵まれない容姿で精一杯頑張っているらしく、腹はしっかり凹んでいた。いろはは彼に言った。
「薬を洗浄すると、眠気も電磁波攻撃も軽減します」
「良かったですね」
「あなたがまず飲んでください」
「患者さんのお薬は本人しか、飲んでは駄目なんです」
「それではいつまでたっても、薬物混入の証拠が出せません」
「薬剤師は混入などしません」
「いつもあなたが正しくて、私が間違っているのはおかしいです」
「そうは言ってもね」
「今、あなたが薬を飲んでください。抗うつ剤は誰が飲んでも命に別状はありません」
「薬剤師はそういう仕事をしていないのです」
「いろは!」
その時割って入る声がした。彼女が振り返る。カジュアルな私服姿の青年は知った顔だった。
「みか――」
「オレ兄です」
いろはの言葉を遮るように、御門が明るく言った。
「薬剤師さん、彼女お借りします。ちょっと待っててね」
そして、いろはの手を引っ張った。まるで駆け落ちのように二人で走って薬局を出る。通り道で御門は、いろはに耳うちした。
「あのね――」
「な、なるほど」
いろはは薬局に戻った。担当の市松が待っていた。
「すみませんでした。今度はお薬いただきます」
市松は、素直になったいろはに満足しているようだった。
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