(18)薬局vsトルコ行進曲

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 薬局から出てきた彼女を御門が待っていた。  「はい、ソラナックスとデプロメール、エビリファイ。あなたに処方された薬と同じ数、量をブルーフェニックス医療部隊が用意した。これと、薬局の薬を交換して」  「わかりました」  いろはは言う通りにした。  「どうやって私の所まで来てくれたんですか?」  「sns拝読しました」  いろははブルーフェニックスが武装福祉組織であると聞いた。集団ストーカー工作員と戦っているらしい。彼女は笑顔の御門と別れた。  夕方の帰り道。少ししのぎやすい温度になった。駅改札で、目の前の老婆が財布を落とし、駅の中に入って行ってしまう。いろはは財布を拾い、慌てて老婆を追いかける。  老婆が電車に乗る前に追いついた。老婆も喜んでくれたし、近くにいたイケメン駅員も「いい事したね」と笑ってくれた。幸せな事ばかり起こる。  自宅に帰って、ブルーフェニックスの薬を服薬すると、朝食後の睡魔と深夜の電磁波攻撃は完全停止した。  2週間後の霧雨の日、いろはは今度はしっかり傘を持ち、いつものように精神科を受診した。15時に薬局を訪れ、素直に薬を受け取る。    薬局のTVはクラシック番組で、トルコ行進曲が流れていた。ベートーベンみたいな髪型の40代男性指揮者がムチウチになりそうなくらい首を振り、ほっぺを真っ赤にして愉快に指揮棒を振っている。ちょっと小太りでコメディアンみたいに愛嬌がある。  「ありがとうございました」  薬局の外の通り道で御門と薬を交換。これをもう2回、合わせて二ヶ月繰り返した。いつ薬局に行ってもTVはトルコ行進曲の番組だった。  9月27日水曜は快晴。いろはの通院中、道端にセミがでんぐり返っているのが、ちらほら見えた。そんな季節になった。  母親と一緒に歩いていた4歳くらいの子が、セミを拾おうとして、セミ爆弾に遭い、大泣きしていた。  いろはは、天国も秋に差し掛かってるのかな、などと楽しく考えるようになっていた。その後、精神科受診。  昼下がり、いろはが薬局を訪れ、同時にトルコ行進曲の番組が始まる。  「坂町さん」  「はい」  「はい」  返事が二重になった。いろはと同時に御門がやってきたからだ。  いろはは気がついたが、御門は会う度カジュアルな服装で、必ずどこかにローズピンクを使い、デザイナーのように着こなしている。多才な人のようだ。  「お兄さんですね」  市松に御門が頷く。  「その薬、オレが代わって飲みましたが、いろはと同じ睡魔と電磁波被害に襲われました。薬物が混入されてます」  市松は度肝を抜かれたようだ。  「くっ、薬は眠くなるものです」  「就寝時の電磁波攻撃についてはどう説明なさいますか?」  「さあ、どうしてでしょう。精神科のお医者さんにご相談なさっては」  「わかりました。いろは、行こう」  「はい」  彼女は、薬を受け取り、御門と薬局をあとにした。
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