8

8/8
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/227ページ
「これでも自分の公人としての立場は弁えてるつもりだからさ。 キレたらダメだって我慢はしてたんだよね、一応は」 青い顔したままの周囲の人々を見渡しながら淡々と口を開く。 「でもさ? 大切な友達が攫われた挙げ句にこんな舐め腐った手紙まで送って来られたら……ねぇ?」 自然と口角がつり上がっていく久しぶりの感覚を味わいながら言葉を紡ぐ。 「もうさすがに我慢の限界だよ。 だから、私が行くのを邪魔するって言うなら……」 誰かの喉がゴクリと鳴る音が聞こえる。 きっと怯えさせてる。 でも、もうそんなことに構うだけの気持ちの余裕が私にもない。 「誰であろうと容赦しない。 それでも、まだ止める?」 そのままじっと隊員達を見つめる。 みんなも緊張しているのか、私を見る表情はどれも固く強ばっている。 誰も言葉を発しようとしない中、どれくらいそうしてたかはわからない。 やがて、諦めたのか観念したのか。 ヒギンスがふぅっと息を吐いたのを合図にするように、隊員達の表情が柔らかくなる。 「隊長がそこまで言われるのでしたら、もうお止めするのはやめましょう。 ですが我らは隊長の手足です。 せめて露払いくらいはお申し付けください」 「そう?」 みんなもそれで良いのかという意味で問い掛ければ、全員が頷く。 そっか、それならそれで良い。 「相手は何人いるかわからない。 これが陽動で、まだ他にも仲間がいる可能性がある。 だから、みんなは辺境騎士団とも連携して周辺の捜索を」 「かしこまりました」 私の言葉に騎士の礼をとる隊員達を見渡しながら、にやりと笑う。 「基本は生け捕り。 でも、抵抗するなら遠慮はいらない。 容赦なく殺っていいよ」 「お任せくださいっ!」 獰猛な笑みを浮かべたカレンが元気よく返事をしてくれる。 暴れたくて仕方ないだろうからね。 たぶんカレンに見つかった奴は何をしようが話そうが確実に殺されるだろうねぇ。 それで良いから止める気はないけど。 「じゃあ、そういうことだからスチュワートさん。 後のことはよろしくね」 「承知いたしました。 エフィーリア殿下への迎えの件も含め、ワナイ騎士団長に伝令を出しておきましょう」 あぁ、そう言えば私が行くって言っちゃったんだっけ。 すっかり忘れてた。 まぁ、スチュワートに任せておけば大丈夫でしょ。 「よし、それじゃあ行ってくる。 みんなも思い切り暴れておいで」 「はっ!」 一斉に動き出す隊員達を見送り、私も馬に乗って指定された場所を目指す。 手紙に書かれていた場所は、領都から少し離れた森の中だ。 そこで働く猟師や木こり達のための小さな小屋のあるところ。 この前ビキャフス湖へ行く途中に通った場所だから、迷うことなく行ける。 やがて小屋が近くまで来たところで馬を降り、真っ暗な森の中を徒歩で歩いて行く。 すると、小屋のすぐ近く。少し開けた場所に月明かりに照らされた複数の人影が見えてきた。 「サキ様!!」 手足を縛られているけど間違いない。 アンネ達だ。 そしてその傍らに立つ抜き身の剣を持った人物。 すっぽりとフードに覆われたその顔は見えないけど、その姿には心当たりがある。 恐らくだけど、ハーパー達の一件に関わっていた帝国の人間なんじゃないかと思う。 しかし、四人は小屋の中に捕らえられているだろうとばかり思っていたのに、わざわざ屋外に連れ出してるのには理由があるのだろうか。 その辺が少し気にはなるけど、まぁいい。 捕らえて情報を引き出すのが正解だろうけど、ぶっちゃけそんな気はない。 だって、今の私はお上品な近衛騎士じゃない。 あいつはこの【必滅の魔女】に喧嘩を売った。 愚か者に待つのは確定された死。それだけだ。
/227ページ

最初のコメントを投稿しよう!