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馬車だと半日かかる道程を全速力で馬を走らせ、数時間後には辺境伯邸が見えて来た。
もう真夜中だと言うのに辺境伯邸周辺には篝火が炊かれ、その周囲を明るく照らし出している。
「サキ様、戻られましたか」
屋敷のエントランスまで馬で乗り付け、使用人に馬を預けていると私達の帰還に気が付いたスチュワートが足早に近づいて来る。
「うん。状況は?」
「現在、ワナイ騎士団長を中心に辺境騎士団で領都内及び周辺を捜索中です。
しかし、今のところ有力な手がかりも目撃情報もありません」
「そっか……」
護衛に付いていたのは辺境騎士団でも有望な騎士達だった。
街のゴロツキ程度がどうこう出来るような相手じゃない。
四人が攫われたのだとしたら、間違いなくプロの仕業なんだけど、その裏にいるのが何者なのか。
いくらアンネとコーネリアが高位貴族の令嬢だとは言え、身代金目的の誘拐とかだとは思えないんだよね。
ここでは顔は知られてないから高位貴族の令嬢だとはわからないはず。
服装や立ち振る舞いからお忍びの貴族令嬢だっていうことくらいはわかるかもしれないけど、それだったら騎士が護衛に付いている相手を選ぶとは思えない。
ましてや騎士を殺害するなんて完全に辺境騎士団を敵に回すようなことをするはずがない。
だとしたら、国内でフューリー家やルーベック家と敵対している貴族か、あるいは……。
「サキ様」
「なに?」
考え込んでいると、スチュワートから声が掛かる。
「エフィーリア殿下は?」
「あぁ、朝を待ってこっちに戻って来てもらうように言ってある。
ホーネスト男爵も協力してくれるてるし、ここまでの道中は大丈夫だと思う」
「なるほど。
それでは、こちらからも迎えを出しましょう。
すぐにワナイ騎士団長に伝令を出します」
「うん、そうして。
あ、やっぱりいいや。辺境騎士団の詰所にいるよね?
だったら私が伝えて来るよ。
それでそのまま合流して私達も捜索に加わるから、スチュワートさんはここをお願い」
「かしこまりました」
「あ、あと新しい馬の用意頼める?」
ここに来るまで乗って来た馬にはかなり無理をさせた。
さすがにこれ以上無理をさせたら潰れてしまうので、替えを用意してもらう。
そして、ここまで頑張ってくれた馬をしっかりとお世話してくれるように頼んで、新しい馬に乗ろうとした時だった。
一人の騎士が辺境伯邸に駆け込んで来ると、そのまま私達の元へと駆け寄って来る。
「サキ殿!良かった、戻っておられましたか!」
「何か進展があった?」
私の言葉に、騎士は乱れた呼吸を調えると懐から一通の手紙を取り出す。
「騎士団の詰所にこのような手紙が。
受取人はサキ殿となっております」
「私に?いつ誰から届いたかわかる?」
手紙を受け取りながら訊ねるも、騎士は首を振る。
「それが全くわからないのです。
現在、騎士団の詰所は厳戒態勢です。
部外者が近付けるはずもないのですが……」
「まさか……」
騎士団に内通者が?と言いかけたのは何とか飲み込む。
こんな時にそんなことを口に出したら、ただでさえ混乱してるのに余計に現場を混乱させるだけだ。
色々と気になることはあるけど、まずは何が書かれてるか確認する必要があるよね。
そして、周囲からの視線を感じつつ手紙に目を通した私は、気が付いたらその手紙をぐしゃぐしゃに握り潰していた。
ふざけやがって……!
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