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「あ……」
その光景を呆然として見ている私の前で、小さく声を漏らすと、コーネリアはそのまま音もなく地面に倒れ伏す。
「いやああああああああぁぁぁっ!!」
「コーネリア様ぁぁっ!!」
辺りに響き渡るアンネ達の悲鳴に私も我に返る。
「コーネリア!」
みんなで必死に呼び掛けるも、コーネリアはピクリとも動かない。
地面にどんどんと広がっていく赤黒い染みが、真っ暗なはずなのにやけに目に付いた。
『わたくしは何も取り柄がございませんから……。
ですから、せめていつでも明るく笑うことで、皆様を笑顔にして差し上げたいのですわ』
そう言って、少し恥ずかしそうに笑っていたコーネリア。
その彼女が、いつも笑顔だったその顔が、笑っていない。
もしかしたら、もう二度と……。
「お前……絶対に殺してやる……!!」
「これは恐ろしい。
ですが魔女殿。貴女のせいですよ?
素直に私の言うことに従ってくださればよかったのです」
怒りのままに全身から溢れ出す殺気を抑える気もなく言う私に、男はそれでも余裕の笑みを崩さない。
「ふざけるなっ!絶対に『みんなは死なせない』!」
最後に視線だけをみんなに向けて怒鳴る。
まだコーネリアに息があればこれで大丈夫なはず。
お願い、間に合っていて……!
「おや?魔女殿。今能力を使われましたか?
困りますねぇ。使わないでくださいとお願いしたのに」
「ふざけないで!!あんた何を言ってるの!?
こんなことをして許されるとでも思っ……て……?」
涙に濡れた瞳に怒りを満たして男を振り返ったアンネの言葉が途中で止まる。
その胸には、男が言葉もなく突き刺した剣が。
ごぼりと大量の血を吐き出し、コーネリアに重なるように倒れるアンネ。
『サキ様はこんなわたくしを大切な仲間だと仰ってくださいましたわ!
ですから、わたくしはいつでもサキ様が誇れるわたくしでいたいと思っているのです!』
そう言いながら輝いていた瞳には、今は苦悶と絶望が浮かんでいる。
そのアンネの瞳が、倒れ伏すコーネリアの姿が、私が心の奥底に封じ込めてきたモノの蓋を開ける。
「アンネ様あああぁぁぁっ!」
「おや?心臓を貫いたはずが息があるようですね?
これは魔女殿の能力の影響でしょうか」
男は何の感慨もなく剣を引き抜くと、苦悶の表情を浮かべるアンネを見下ろす。
ねぇ、さっきから何してるの?
あぁ、なんだかものすごく頭も痛い。
「これは面白い。何度刺しても死なないなんて!」
狂ったように口元を歪めながら、何度も何度も。
執拗にアンネに剣を突き刺す男。
ねぇ、その子にそんなことしないでよ。
剣で刺されるアンネの苦悶に満ちた悲鳴が。
その様を見せつけられて、それでも男を止めようと泣き叫ぶエミリーちゃんとニーナちゃんの声が。
すぐ目の前の光景のはずなのに、とても遠く感じる。
頭痛もどんどん酷くなって来る。
ねぇ、やめてよ。
みんな本当にいい子なんだよ。
私みたいなやつに笑顔で話しかけてくれるんだ。
私みたいな化け物を慕ってくれて、こんな遠くまで会いに来てくれたんだ。
「はははははっ!魔女殿!これは貴女が拷問に楽しみを見出すのがわかりますねぇ!
実に面白い!」
「ねぇ、痛がってるじゃん。もうやめてあげてよ」
「おや?これは妙なことを仰る。
貴女がいつもしていることではありませんか!」
「何言ってんの?これは全然違うよ」
「何も違いなどありませんよ!
そもそも、こうなったのは全て貴女のせいではありませんか!」
「私のせい?そうなの?」
「えぇ、そうです!全て貴女のせいです!」
そっか。全部私のせいなのか。
エミリーちゃんとニーナちゃんが私を見ながら何か必死に言ってるみたいだけど。
でも、ごめんね。もう何も聞こえないや。
あぁ、頭が痛い……。
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