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「ん……」
小さく声を漏らし、サキが目を開ける。
「サキ……」
辺りを見回すように動いていたサキの瞳が、私の声に反応してこちらへとゆっくりと向けられる。
サキの瞳の色は濃い紺色だってナターニャ先生は言ってたけどなるほど。
言われてみれば確かにその通りだなぁ。
これはこれで綺麗でいいなって思うけど。
「フローリア……?」
まだはっきりとは覚醒してないのかな。
私の名前を呼ぶサキの声は、普段のしっかりした感じとは違い少し幼く聞こえる。
それでも、サキの声だ。
これまで聞いていた、頭の中に直接響くような声ではなく、しっかりと私の鼓膜を震わせて響く声だ。
「目が覚めた?」
ただそれだけのことと言ってしまえばそうなのかもしれないけど、そのことがこんなにも嬉しい。
自然と視界が滲みかけるのを堪え、歪んでしまいそうになる顔で必死に笑顔を作る。
「私どうして……あぁ、そうか……」
サキも少し記憶が曖昧になってるのかな?
目が覚めた直後は私もそうだったし、サキは私よりもずっと長い時間眠っていたから余計にそうなのかもしれない。
「やっと、こうしてサキと話せるんだね」
あの夢のような空間の中で、サキから言われた言葉を今度は私が口にする。
そのことに気が付いたのか。
一瞬驚いたように目を軽く見開いたサキが、可笑しそうに微笑む。
「そうだね。やっと会えた」
「うん」
あれ。私どうしたんだろう。
こうしてサキと会えたら、話したいことがたくさんあったはずなのにな。
もちろん、これまでも私の中にいたサキとは色んな話をして来たけど、やっぱりこうして顔を合わせて話せるっていうのは別物だと思ってたから。
それなのに、なんだか胸がいっぱいになってしまって、全然言葉が出て来ない。
「フローリア?」
私がじっと見詰めたまま固まってしまっているから、サキが不思議そうに首を傾げている。
その動きに合わせて、濃紺の髪がさらりと流れている。
綺麗だなぁ。
私はそう思って見ていたんだけど、サキはそうではなかったらしい。
顔にかかる髪を邪魔そうに払っている。
昔の自分と同じ顔のはずなのにこう思うのは変かなとは思うんだけど、大人しくしてれば深窓の令嬢って言っても通じそうな美少女なのに。
顔を顰めて髪を払い除けるちょっとした仕草が、やっぱりサキなんだなぁって思えて自然と笑みが零れる。
「またソフィアに結い上げてもらわないとね」
「それも良いんだけど、私としてはやっぱり切りたいんだけどねぇ」
それはレイシアはもちろんソフィアにも怒られると思うよ?
サキ自身もそう思っているのか、口では切りたいと言ってるけど、本気で言ってる訳ではなさそう。
「魔法は成功したんだね」
「うん。体はどう?違和感とかない?」
目覚めて少し経ったから色々と思い出したのか。
サキがぽつりと呟く。
「うん、大丈夫。
すごいね、この体。なんかもっとツギハギだらけのとかイメージしてたんだけど」
やっぱりサキもフランケン○タインをイメージしてたのかな。
服をめくって興味深そうに自分の体をあちこち眺めている。
はしたないって止めるべきなんだろうけど、まぁ今はレイシアも席を外してるから別にいいかな。
あぁ、そうだ。
魔術士団長様とかにサキが起きたって伝えて来なきゃね。
「フローリア、ちょっと待って」
そう言って立ち上がろうとする私をサキが呼び止める。
「ん?どうかした……って、ちょっとサキ!?」
浮かべかけた腰をおろしたところで、突然サキが背後から抱き着いて来た。
腰に回された手は、まるで私を行かせないと主張するかのように強く結ばれている。
こんなことをするなんて全く想像していなくて混乱する私を、サキはさらに強く抱き締める。
「大丈夫だから。私はちゃんとここにいるから。
だから、もう何も心配しなくていいから」
私の頭をゆっくりと撫でながら、まるで幼子に優しく言い聞かせるように響くサキの声が、少しずつ私の中に染み渡っていく。
あぁ、そうだったんだ。
サキがこうして目覚めて、胸がいっぱいになるくらい嬉しかったのは本当だけど、それと同じくらいやっぱり不安な気持ちもあって。
そんな無意識の不安まで、全部サキには伝わってたんだ。
そう気が付くと同時に瞼の奥が熱くなり、今度は堪える間もなく涙が溢れる。
「うん、ありがとう……」
何とかそれだけ答えると、私よりもずっと小柄な体にしがみつき、私は静かに涙を流し続けた。
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