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「落ち着いた?」
「うん、ごめんね。ありがとう」
どれくらいの時間泣き続けてたんだろ?
体を離して見てみれば、サキが身に付けている簡素なワンピースは私の涙でぐしょぐしょになってしまっている。
うぅ、恥ずかしい……。
今は誰もいないからいいけど、周りから見ると大人が子どもに抱き着いてわんわん泣いてた訳だからね。
頼れる大人への道は遠いよ。
羞恥に顔を赤くしている私を気にすることはなく、サキは機嫌良さそうにニコニコしている。
「サキ?随分機嫌良さそうだね?」
まだ私が中にいた時のサキも無表情ではなくなって来ていたけど、ここまでニコニコとしてるのは初めて見る気がする。
「やっぱり嬉しくてねぇ。フローリアとこうして話せるだけじゃなくて触れ合えるなんてさ」
あぁ、うん。その気持ちはすごく良くわかる。
「それは私もだよ。本当にみんなに感謝しなきゃ」
私の力だけではとてもじゃないけど無理だったからね。
大勢の人達がサキを助けたいと思ってくれて、力を尽くしてくれたお陰だもの。
「そうだねぇ。
私としてもなんかしら恩返しはしないとね」
そうしてサキと二人でうんうんと頷きあっていると、コンコンコンと扉がノックされる。
「あ、レイシアが戻って来たのかな?どうぞー」
レイシアはサキの着替えとかを受け取りに行ってくれてるから、そろそろ戻って来るタイミングかもしれない。
そう思って返事をすると、扉の向こうから現れたのは予想通りのレイシアともう一人。
ナターニャ先生だった。
「フローリア様。ナターニャ様が様子を見に来てくださいました……よ……」
「おう、フローリア。サキの様子は……」
レイシアと先生がそれぞれ言葉の途中で固まり、目を見開いている。
「あぁ、ナターニャ先生お久しぶりです。
レイシアもね、久しぶり」
そんな二人の様子に気付いていないのか、ただ単に気にしていないだけなのか。
相も変わらず上機嫌のサキは笑顔で片手をあげて挨拶をしている。
「サキ……様……?本当に……?」
呆然とした様子のレイシアが呟き、その大きな瞳にみるみる涙が溢れ出す。
「良かった……本当に良かった……」
震える声でそれだけ言うと、両手で顔を覆って泣き出してしまう。
そうだよね。
レイシアも、ずっとサキのことを心配し続けていてくれたんだもんね。
「あー、えっとその。ごめん、心配かけて」
そんなレイシアの様子にサキは戸惑ってるけどね。
まさか号泣されるとは思ってなかったんだろうなぁ。
「無事に目が覚めたようで何よりだ。
良ければ少し身体の状態を見させてくれるか?」
泣いているレイシアの背中をさすってあげていた先生がサキに問いかける。
その表情はとても優しくて、いつも教壇の上からみんなを見守ってくれていた生徒思い先生の姿を自然と思い出した。
「あぁ、お願いします。
自分では問題ないとは思うんですけど」
私と入れ替わるようにサキの隣へと腰をおろした先生が、丁寧な手付きでサキの身体を調べている。
何とか泣き止んだレイシアも、やっぱり気になるようでまだ涙で濡れたままの瞳でその様子を心配そうに見守っている。
途中で何度か小さく頷いてるから、大丈夫そうだとは思うけど……。
「よし、特に拒絶反応とかは出てなさそうだな。
それにやはりと言うか、一つ嬉しいお知らせがあるぞ」
「嬉しいお知らせ?」
その言葉に、私とサキとレイシア。
三人で揃って首を傾げてしまう。
私としてはサキの体に問題がないだけでも嬉しいお知らせなんだけどな。
なんだろうと三人で顔を見合せていると、それを楽しそうに見ていた先生がニヤッと笑って口を開く。
「予想していたことではあるんだけどな。
サキ、お前、魔法が使えるようになったぞ」
「へ?」
私とレイシアが驚きに言葉を失う中、サキの間の抜けた声がよく響いた。
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