人間の国

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人間の国

 朝、目覚まし時計の嫌な音が僕の脳内を侵食してゆく気持ち悪さに目を覚ました。  薄っぺらい布団を剥がし、始めに目に飛び込んだのは白い天井だった。僕にはすっかり馴染みのある光景であり、できればもう見たくない光景でもある。 頭上で金切り声をあげている目覚まし時計を止め、酷く重い頭を抱えながら上半身を起こした。四方を囲む白い壁。そこにかけられた時計は十二時で止まっていた。 僕は目覚まし時計に目を向け、今の時刻が午前八時であることにやっと気がついた。  立ち上げれば途端に眩む視界。カーテンを開ければ嫌な日差しが僕の部屋を照らした。  冷蔵庫からすっかりくたびれた惣菜と、昨日の残りの白米を取り出す。僕にとっては十分な栄養だった。 テレビをつければ、どこかの国で起きている致命的な問題についての話し合いが繰り広げられている。スーツに身を包んだ者たちが自身の意見を尊重し、他人の主張をまるで粗悪品のように貶し尽くしている。結局、僕が朝食を食べているうちに結論は纏まらず、曖昧なまま次の論題へと移されてしまった。  彼らはこんなことで金を貰っているのかと、僕はかなり苦いコーヒーを喉に流し込みながら考えていた。  食器はシンクに置きっぱなしにし、僕は歯を磨いた。窓の外では車が走り、学童たちが我先にと道を走っている。 そうか、今日は土曜日だったのか。僕は洗面台に嵌め込まれた鏡を見た。僕がいた。なんの変哲もない、僕の姿だ。 口を開ければ血の混じった泡。強く磨きすぎてしまったようだ。グラスに注いだ水で口内の泡を流し、水道に広がる赤い泡をじっと見つめた。 「この国の人口は増やすべきだ。新しい社会のために、その社会を作ってくれた我々大人のために。子供を増やすべきだろう。」 「冗談じゃない。このまま人口が増えればいずれ食糧難に陥ることは間違いない。環境汚染で育つ肉や野菜の量も年々減ってきているのだぞ。」  僕は画面の向こう側で言い争う彼らを淡々と見つめながら服を着替えた。 不安なことばかり言うではないか。全く、もっと楽しい話題はないのだろうか。 着替えも終わり、鞄を持てば家を出る準備は整った。僕は未だ醜い顔で言い争う大人たちの映るテレビを切り、重い足取りで玄関へ向かった。
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