電波塔の国

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 あの塔を目指すべきなのだろうか。僕はしばらく立ち止まり迷っていた。 何か、変な胸騒ぎを覚え胸を抑える。ゾワゾワとした嫌な感覚だった。  刹那、「ビーーーーーッ」とけたたましいサイレンのような音が響く。  まるで映画館の開演ブザーのようだ。僕は何事かと周りを見渡した。 人々がマネキンのように動きを止め、皆塔の方角へ視線を向けている。元気に走り回っていた子供も、子供に連れられた犬さえも微動だにしていなかった。 その場にいる全員が塔を見上げ、騒ぐことも逃げることもなくその場に停止し続けている。かなり異様な光景であった。  僕も塔の方へ視線を移そうと思った瞬間、周りの人々は突然その場に膝をついた。  そして頭を固い地面につけ、塔に向かって深々と跪いた。 何事かと塔を見たが、特に何も変わってはいない。僕は跪く彼らの周りで、ただ一人茫然と立ち尽くしていた。 「「「王様万歳!王様万歳!」」」  突然、周りの人々が声を揃えてそう叫ぶ。  僕は余計頭が混乱し、思わずその場から離れてしまった。誰かに尋ねることもできずに人気のいない場所へ逃げようと思った。 しかしどういうことだろう、どこに行っても跪く人間たちがいるではないか。大通りなんて彼らで列を成していた。まるで江戸時代の下民のようだ。 スーパーの中も、公園も、学校も、どこに行っても跪いた人々ばかりだ。  僕はどうすれば良いかと頭を捻った。しかしこれといった解決策が浮かぶはずもない。 鞄の中にあるのは金銭とパンと文房具の詰め込まれたペンケースのみ。これではいずれ飢え死ぬだろう。 どうしたものかとため息をひとつ吐いた時、不意に声をかけられた。 「お困りのようですな。」
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