電波塔の国

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 老人の確信めいた質問に、僕は迷わず頷いた。 すると老人は初めて笑顔を見せた。笑顔と言っても僅かに口元を歪め、息を漏らしただけだが。 「私も別の国の出身だ。越してきた時は平和だったがな…今では面影もない。」  懐旧に浸る声色だった。若かりし頃を懐かしむように、老人は瞼を閉ざしていた。 しかし僕はなんとなくわかってしまった。恐らく、僕や彼が電波の影響を受けないのはこの国の出身ではないからだろう。 即ち、この世界にはこの国以外にも別の国が存在するということだ。 「お前さん、この世界は誰が作ったと思う?」  唐突な質問に僕は首を傾げる。 「…わかりません、あなたはどう思いますか?」  僕が質問を返せば、彼は髭を撫でながら唸る。そしてしばらく悩んだ後話し始めた。 「そうだな…。確信ではないが。私は幼い頃、この目で神を見たんじゃ。」 「神…ですか?」 「ああ、あれは神だった。光の中に突如現れ、私に向かって手を差し伸べた。今でもその時の光景だけは覚えておる…。」  老人は胡座をかいていた腰を上げると、自身が座っていた薄いボロ切れの下へ手を差し入れた。 そしてそこから何かを取り出すと、それを僕に向かって差し出した。  それは古びた鍵のようだった。西洋の古いタイプであり、鈍い金の光を放っている。 「…それは?」 「あの時、神から授かったものだ。」  本当だろうか?なんとも胡散臭い話だったが。僕はその鍵を隅から隅まで凝視したが、どこからどう見てもただの鍵である。 「旅人よ、一つ頼まれてはくれないか?私はもう短命だ、旅をする力も残っておらん。その鍵を君に託そう。私の代わりに、神を探してくれないか?」  老人は顔を上げ、初めて僕の瞳を見た。濁っているが美しい瞳だった。まるで水晶のように白く美しかった。 なんだかよくわからなかったが、僕はただならぬ使命感が体を駆け巡っているのを感じ鍵を受け取ってしまった。 「…ありがとう。これで悔いはない。」  老人は優しく笑い、僕に差し出していた手を力無く下ろした。 僕は鍵をもう一度まじまじと観察した後、それを鞄の中へ仕舞った。
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