0人が本棚に入れています
本棚に追加
数多のビルの間を抜け、次第に大きく視界に映る塔を目指す。
跪く民衆を跨ぎながら駆け抜け、歩く監視員を見つける度に物陰へ隠れた。
ようやく塔の真下に着いた時には全身の関節が痛み、喉に刺されたかのような痛みが走っていた。塔を見上げれば、太陽の眩しさに目が眩む。
入り口には監視員が一人、両手を後ろに組んだ綺麗な姿勢で佇んでいる。見張りなのだろう。
僕は塀の陰に隠れながらしばらく彼を見ていたが、不意に自分の足元に丁度良い大きさの石が転がっているのに気が付いた。
躊躇している暇などない。僕は野球ボールほどの大きさの石を拾い上げると、監視員の元へ勢いよく駆け出した。
そして彼が僕に気づき警棒を取り出すよりも早く、彼の頭部めがけて石を思い切り投げ飛ばした。
ゴトッ、と鈍い音が響く。地面に倒れた監視員の頭からトクトクと血が流れ始める。
僕は彼の持っていた警棒を取り上げると、それを片手に塔をもう一度見上げた。
あのてっぺんに何が待ち受けているのかは想像し難い。しかし、僕はそれでも上らなければならないという強い意志を胸に秘めていた。
塔の入り口にはボタンが一つ。押すと扉がゆっくりと開き、そこには何もない空間が広がっていた。
中に入り四方八方を見渡す。すると壁につけられた無数のボタンが目に留まった。
なるほど、これはエレベーターだ。開閉ボタンに階数のボタンというわけだ。
しかし不思議なことに、このエレベーターには開閉ボタンの他に最上階と書かれたボタンしかなかった。
僕は迷わず最上階へのボタンを押した。エレベーターが上昇し始める。体が浮き、耳がこもるような感覚に少々気分が悪くなった。
このまま空を超えて宇宙にまで行ってしまうかもしれない、そう感じてしまうほどエレベーターは上昇し続けていた。
そうしてやっとエレベーターが止まった時、僕は警棒を片手に構えていた。
ゆっくりと開かれる扉の先を凝視しながら、僕はそっと足を進める。
着いた先はだだっ広い空間だった。円形の室内をぐるりと囲むように設置された窓からは数多の摩天楼が見えた。
僕は一歩ずつ慎重に前へ進んだ。エレベーターから出ると、周りに人が立っていることに気が付いた。彼らは監視員とは違い、武器になるようなものは持っていなかった。皆、人形のように動くことなく僕を見ていた。
彼らの奥にある大きな何かを見る。それは椅子だった。
もっと詳しく説明すれば、まるで王が座るような上質で背の高い玉座だった。
そこに座っている人間を、僕はじっと見つめた。
最初のコメントを投稿しよう!