電波塔の国

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「ようこそ異国の民、我が王国へ。」  玉座に腰かける男は頭に奇妙な輪を嵌めていた。 王冠とは程遠いものだった。まるでマッドサイエンティストがつけているイカれた実験器具のようだ。 僕は彼に向かって問いかけた。 「お前は誰だ?」 「我こそがこの国の王だ。」 「この塔は何だ?」 「この国の象徴だ。我の作った電波をこの塔から流すことにより、国民たちはこれ以上ないほどの統一性を見出すことができるのだ。」  王は誇らしげにそう答えた。 僕はなんだか彼の姿が馬鹿らしく見えてしまった。何故かはわからない。国を独裁しようとした者は何人もいたが、何故か彼だけは可笑しく見えてしまったのだ。きっとあの頭に嵌めた変な輪っかのせいだろうと自分に言い聞かせた。 「…つまり洗脳か。」  僕は老人の時と全く同じことを口走った。 王は高らかに笑った後、どこか遠くの摩天楼を指差しながら言う。 「ほう、これが洗脳に見えるか?ではどうだろうか。国民それぞれが理想を押し付け合う国が、果たして良い国と言えるのだろうか。民の思想が統一すれば世界は平和になるだろうぞ。」  周りの大人たちが何度も頷いていた。中には拍手をする者までいる始末だ。 王は玉座から立ち上がると、指で周りの大人たちに何かジェスチャーをし始めた。 しばらくして、一人の男が王がつけているものと全く同じ輪っかを持ってやって来た。嫌な予感がした。 「我は研究を重ねた。この電波は他国の民には影響がないのが唯一の欠点だった。そこで、最近やっとこれが完成したのだ。」  王は輪っかを持ち僕の元へ歩み寄る。そして僕の胸元へそれを差し出した。 「君が記念すべき一人目の異国民だ。さあ、これをつけてみたまえ。」  常人であればつけたいとは思わないだろう。無論、僕もそうだった。 周囲の人々の視線が痛かったが、僕は自身の意志を貫くことを決めた。 「もし、従わないと言ったら?」  王の顔が明らかに変わった。あの自信満々な表情はどこへ行ったのやら、随分とご立腹の様子だった。 「…その時はその時だ。以前この町に来た異国民たちと同じ末路を辿ることになろうぞ。」  ふと、僕の脳裏に浮かんだのはあの老人の存在だった。果たして彼はどうなったのか、彼以外の異国民はどうなったのだろうか。 それを聞く勇気までは持ち合わせていなかった。いや、恐らく僕はわかっていたのだ。逆らうものがどうなるのか、どのような末路を辿るのか。独裁国家にとってそれは昔から変わらないことだ。  さて、相変わらず僕の前に突き出されたヘンテコな輪っかだが、そろそろ受け取らないと堪忍袋の緒が切れる頃だろう。僕は警棒を持つ手とは逆の手でそれを受け取ってやった。
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