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何度見てもヘンテコなものだ。近くで観察すれば尚更である。輪っかから伸びた棒の先についた球体がやけに艶やかだった。
これを被ったところで果たして僕は幸せになれるのだろうか。もしこれを頭にくっつけた瞬間、この塔から放たれる電波とやらを直接脳に受けたら。
僕は全てをコントロールされることで幸福を感じるのだろうか。好奇心が僅かに湧いてしまったが、それ以上の不安が押さえてくれていた。
僕の様子を見た王は高らかに笑いながら催促し始めた。
「どうした?さぁ早く被りたまえ。それを被れば君も今日から我々の仲間だ。さすれば今日は記念日になろうぞ。国が異国の民を受け入れた素晴らしい日に…!」
周りから拍手が飛び交う。皆、まるで張りぼてのような笑顔だった。
口の角度に目の細さまで同じ、終いには瞬きのタイミングまで揃っていた。
今日が記念日になるのなら、来年の今頃は僕もこの拍手喝采の中に混じっているのだろうか。彼らと全く同じような笑顔を浮かべ、全く同じように拍手をし、全く同じような人生を歩んでいく…。
僕は警棒を脇に挟み、王冠を持つように丁寧な手つきで輪っかを持ち上げた。そして頭上まで上げた両手をゆっくりと下ろし、輪っかを頭のスレスレまで近づける。
「神を探せ。」
頭上からそんな声が聞こえ、僕は手を止めた。
その声はどこか懐かしさを秘めた心地良いものだった。少なくとも、この場にいる誰かのものではないことは明らかだった。
…そうか、僕は旅人ではないか。
「…馬鹿馬鹿しい。」
僕は輪っかを下ろすと、目の前の王に向かってそう告げた。
「何だって?」
「馬鹿馬鹿しいと言っているんだ。」
バキリと嫌な音を立てながら、僕は輪っかの一部をへし折った。
王の顔がみるみるうちに赤みを帯びてゆく。歯を剝き出しにし、怒りに身を任せ拳を握りしめていた。
「無礼者め!!」
王がそう叫ぶや否や、僕は警棒で彼の頭を殴りつけた。
渾身の力で何度も何度も、反撃の隙など与えぬ速さで何度も何度も…。
床にへたり込む王に追い打ちをかけるように、僕は彼の全身を警棒で叩き続けた。
王は「ギャッ!」と悲鳴を上げていた。周囲の人間たちは止めることもなく、ただただ床に這いつくばる王へと視線を向けていた。
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