電波塔の国

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 僕は警棒を投げ捨て、蹲る王を跨ぐと、彼の座っていた滑稽な玉座へと向かった。 玉座へ座る。座り心地は思ったより悪くはなかった。 周囲の人間の視線が王から僕へと移り変わる。僕は無表情の薄ら寒い連中に向かって高らかにこう告げた。 「王が倒された。だからこの国の法律を変えよう。王など存在しない。」  瞬間、彼らは大きく跳ね上がった。正確には、各々が全く違う喜びの舞を踊り始めた。 涙を流しながら笑う者、驚愕と嬉しさに打ちひしがれる者、互いに抱き合う者、天へ拳を突き出す者…。 僕は玉座から降りると、未だ蹲る王の元へ向かった。 「もうお前も国民だ。洗脳などしてはならない。」  老人は、満足しているだろうか。僕はこんな国をとっとと出たかったので、そのままエレベーターへ向かおうとしていた。 しかし背後から乾いた笑い声が聞こえ、思わず振り返っていた。 王が笑っていたのだ。ボロボロになった王冠という名の輪っかを放り投げ、乱れきった髪を垂らしながら笑っていた。 「馬鹿め、革命を起こしたな。神にでもなったつもりか…?」  歓喜する者の一人がどこからか銃を取り出した。 僕はエレベーターに乗れば良いものを、何故かその光景から目が離せずにいた。 「今に見てろ、戦争が起こるぞ。」  乾いた発砲音と共に王の顔面が地面に叩きつけられる。 血が僕の足元まで飛んでいた。王の後ろに佇む男は銃を仕舞い、王の亡骸を指差しながらゲラゲラと笑った。 「見ろ!これが俺たちの崇拝していた者の姿だ!なんて無様だろう!」  彼に触発された人々が様々な凶器を片手に王の亡骸へと群がった。 僕は流石に気味が悪くなり、足早にエレベーターに乗り込むとすぐさま扉を閉めた。 ゆっくりと下降し始めるエレベーターの動きが僕の体調を悪化させる。 しかしもうこの国ともおさらばなのだ。何もそんなにマイナスに考えることはないだろう。あの王が今頃どんな状態で弄ばれているのか、そんなことは絶対に考えたりしなかった。  やがてエレベーターは地上へと降り、到着のベルが鳴った。 僕は徐々に開いてゆく扉の前に立ち、この国との別れを胸に一歩を歩みだそうとした。  しかし、目の前に広がっていた光景がそれを阻止した。  つい先ほど、上空から見下ろせた素晴らしい摩天楼が消え失せていたのだ。 ビルは崩壊し、あちらこちらに瓦礫の山。遠くの建物からは黒煙が上がっている。 人々の悲鳴が聞こえ、どこからか爆発音がこだましていた。 僕はすっかり困惑していた。エレベーターで降りている僅かな時間に一体何があったというのか…。  そっと振り向いてみる。立派な塔はただの鉄の塊と化していた。 あのシンボルのような奇妙な形など跡形もなく、先ほどまでいたはずの円形の部屋は消滅していた。  再び爆弾の音。先ほどよりも近い場所だ。僕はたまらずに近くの塀へと身を屈めた。  あぁ…なんてことだ、あの王の言ったとおりになった!  これではまるで戦争の真っ只中ではないか。
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