22人が本棚に入れています
本棚に追加
入店二日目。
開店と同時に一組の指名のないフリーのお客様が来店された。
高級そうなスーツを着こなすダンディなお客様だったが、その方が入店され一瞬、私と目が合った。
「あ、呼ばれるかも・・・」
このカンはだいたい当たる。
案の定、
「玲奈さん、知ってるお客様?」
とボーイさんに聞かれ、
「ううん知らないけど、なんで?」
「玲奈さん、ご指名なんだけど、来たことないお客様だから気を付けてね」
「あら、そうなの」
お姉さんがなぜ、待機の席の場所を指定していたのか、ようやく理由が分かった。
お客様に一番に顔を見せることで、印象付けることができ、指名が取りやすくなるのだ。
お席に向かい、
「いらっしゃいませ、玲奈と申します。どこかでお会いしましたか?」
「いや、初めてだよ」
「え?ではなぜご指名を?」
「君の立っている姿と目の光が気に入ってさ」
「うれしいです、ありがとうございます」
たまたま目が合い指名を頂いた、いうなればラッキー指名だ。
きっと次回にはまた違う子を指名で来るのだろう。
これがキャバクラの嫌なところだ。
「じゃ、乾杯しよう。君の好きな飲み物は何だい?」
「好きな飲み物はドンペリです」
この受け答えも、お姉さんからの伝授であった。
ある程度は必要だが、気を使ってばかりじゃ、自分も店も売り上げが上がらない。
失敗することもあるけど、好きなものを聞かれたらまずは高いものをねだってみる。
言いつけをきちんと守り、高いものを素直にねだった。
「そうか、奇遇だね。僕も好きなんだ」
(あれ、この方・・・まさか)
怪訝に思いながらもボーイさんにドンペリをお願いした。
「ドンペリにはイチゴを入れると美味しくなるって知ってるかい?」
「いいえ、初めて聞きました」
「じゃ試してみよう。フルーツも頼んでくれるかい?」
(やっぱりこの方、お金持ち!)
ドンペリは1本5万円、フルーツは1万5千円もするのだ。
なかなか初めて来たお店で頼めるようなものではない。
今日だけの指名だと思っていたが、毎週1日~2日はきてくださり、多いときは4~5人で来店し、必ず私を指名してドンペリとフルーツを頼んでくれた。
口説くこともなく、スマートに飲んで帰られる。
本当に可愛がってくださり、もうご病気で亡くなられたが今でも感謝している。
そして入店から一か月が経ち、お給料日がきた。
お給料日には必ずミーティングがあり、そこでNO.3までがみんなの前で名前を呼ばれ、手渡しでお給料をもらう。
第3位から名前を呼ぶ店長、みんなに拍手されおめでとうと言われながらお給料を取りに行く女の子。
いつかは自分の呼ばれるようになると心に誓った。
今は呼ばれることはないと思い、ぼーっとしていた。
「今月トップは玲奈さん!・・・あれ?玲奈さん?」
隣に座っていた女の子に肘を小突かれ、
「玲奈、あんただよ」
「へぇ、すごいねぇ」
「ぎゃはは!!」
店にいた全員が大笑いしている。
「え?何?」
「おお、すごいなぁ。トップはお前だよ」
言っている意味が分からず店長の顔を見る。
「玲奈、君だよ」
「ふぇ~!嘘!?本当に!?」
「よく頑張ったな」
「やったー!!」
飛んで跳ねて大喜び。
この頃にはお店の中で仲の良い子たちもでき、みんな一緒に喜んでくれた。
「玲奈、ずっとNO.1目指してたもんね」
「入って1か月で取るなんてすごいね」
「よし!終わったら玲奈の奢りで焼肉ね!」
自分のことのように喜んでくれる仲間。
苦しいときも嬉しいときも、互いに励ましあい喜び合える仲間。
(友達ってこんなにいいものなんだ・・・)
みんながいたから取れたNO.1、一人では成しえない。
彼女たちがいてくれたから、他のテーブルにも安心して行けた。
みんなにお礼がしたいと思い、ご要望通り、焼肉を食べながらそこでもみんなにお祝いされた。
生まれて初めて出来た「友達」、いろんな話が出来る「仲間」だからこそ、みんなは理解してくれると思い、すべてを話した。
最初のコメントを投稿しよう!