長い長い暗闇

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 その一か月後、可愛いムクも天国へと旅立った。  祖母をなくし、可愛かった姉妹まで亡くなり、ショックで一週間寝込んでしまった。  いつまでもクヨクヨ泣いてたら二人とも心配で、天国に行くに行けないって言ってるよと、母の言葉に後押しされ学校へ行くことにした。  学校の通学路にはムクとの思い出が沢山つまった公園がある。  そこを通るたびに楽しかった記憶が蘇る。  そして、また泣く。 数か月が経ち、ある日担任教師から、 「お前、校長先生が呼んでるから、休み時間に校長室に行ってこい。」 と言われた。 校長先生に呼ばれる理由が分からない私は、 「なんで?」 と聞くが、 「分からないけど、行けばわかるよ。」 と言われ、何がなんだか分からず、とにかく校長室へ向かった。 コンコン。 「はい、どうぞ」 校長先生の声。 ドアを開けて顔をのぞかせると、 「あ~、下山さん。これを渡したくてね。」 と、名前を呼ばれたことに驚いた。 話したこともなく、朝会などで、一方的に顔をっみてはいたが、 それ以上は関わることがないにも関わらず、苗字を覚えていた。 そして、渡されたものと理由に、また驚いた。 「下山さん、もうすぐ誕生日でしょ?」 「あ、はい」 「これ、あげるよ。」 渡されたのは、6本セットになった、夢の国のキャラクターがデザインされたボールペンセットだった。 「あ、ありがとうございます。」 「うん、うん」 そして、校長先生はそのまま廊下を歩いて行った。 私は呆然と立ち尽くした。 (なんで?) 意味が分からないのだ。 生徒みんなに誕生日のお祝いを渡してるとは思えない。 では、なぜ私にだけくれたのか? 聞きたかったが、なんだか、子供ながらに聞いてしまうと、自分が傷つきそうな気がして聞くことができなかった。  その後も学校は今まで通り、何も変わらない。  大事な人をいっぺんに亡くし、小さな心は皮一枚でギリギリ平静を装うことを覚えた。  消して弱みは見せられない、見せてしまったら面白がり、余計にいじめられる。  もう少し、もう少しだ。  大丈夫、大丈夫、自分は強い。  そう言い聞かせ、中学に上がる。  中学は他校の小学校からも入学してくる。  いじめっ子たちも当然同じ中学へと入学した。  そして、いじめはちゃんと他校から来た子たちにも広がった。  ただし、小学校では3クラス120人が相手だったが、今度は8クラス360人が相手だ。  猿もちゃんと成長しているようで、いじめる内容も多岐にわたる。  小学校では、臭い・汚いと言われるだけだったので、本の世界に浸ることで流すことができたし、自分じゃないと言い聞かせることができたが、今回は実害があり、目に見えるいじめ。  目に見えるいじめは、心にかなりのダメージを植え付けることができる。  どんなに知らぬ顔をしても、そこに目の前にいつまでも残ってしまう。 腐ったパンをカバンに入れられたり、上履きの中に画びょうを入れられていたり、ジャージを破かれていたり、カバンを学校の裏に流れていたどぶ川に捨てられていたり・・・。  とにかく、よくおもいつくなぁと感心するくらい毎日いろんないじめを受けたが、一番きつかったのはお弁当だ。  中学では弁当を持参するのだが、この弁当は母がまだ夜も明けきらず、草木もまだ眠りについたまま、静かな早朝に一生懸命作ってくれた弁当である。  それを、なにも知らない猿たちにゴミにされる悔しさ。  今、この子たちが大人になり、結婚し、子供が生まれ、弁当を作り、それをゴミにされてようやく、その時の私の悔しさ、惨めさ、そして母への申し訳なさを知るのだろう。  まぁ、やった奴というのは基本すべて忘れてるから知ることもないのだろう。  話は戻すが、弁当をゴミにされたその日の夜、母にはもう弁当はいらないし、コンビニで弁当を買うからと毎朝500円をもらうようになり、その500円も弁当からタバコへと変わっていった。  昼飯を食わず、昼休みは学校を抜け出し、近くの公園でタバコを吸い、昼休みをやり過ごす。  学校にいても、みんなは弁当を貪り、自分は持って行ってもゴミにされる。  どんなに腹が減っても弁当は食えない。  ならばはなっから弁当を持たず、見れば腹が減るなら、その場にいなければいい。  そうやって毎日をやり過ごした。  そして月日は流れ、中学2年生になった。  そろそろ進学を考え出す時期でもある。  ある日、三者面談があり、そこで担任から行けそうな高校は専門学校くらいしかないと言われた。  私は小学校4年から6年まで、そろばん塾に通い、珠算2級を持っていたので、簿記の専門学校ならいけると言われた。  両親は専門学校と聞くと、頭が悪く、素行の悪い人が行くところと思っていたようで、 「専門学校なんか絶対だめだ!ナントカ高等学校と付くところに行け!」 と両親から言われ、一週間後にはどこから見つけたのか、大学生の家庭教師を連れてきたのだ。  勉強嫌いな私は嫌で嫌で仕方がない。  塾は行くも行かぬも自分次第で、行かずにさぼることができる。  だが、家庭教師は行く行かぬではなく、問答無用で先生が自宅に来てしまうのだ。  具合が悪いと嘘もつけず、毎週1日、必ずこっちの気持ちはどうであれ、来てしまうのだ。  腹を括り、週に1日2時間だけ勉強をすることにした。
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